残り0.1秒の奇跡

□偽りの片想い
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「テツー!一緒に帰ろうぜぇ」

「はい」


まただ。
黒子に肩組みしながら部室から出て行く仲の良い2人の背中を見ながら胸の痛みを、黄瀬は感じた


これは、青峰が笑顔にバスケしていた時の話だ。



「っあぁー!もう何なんスか!?」

「そういうお前こそ何なのだよ」

「あれぇ〜赤ちんは?」

「また部屋にこもって将棋なのだよ、全く」


帝光中学2年の春。
心地良い風が吹く季節だが黄瀬は全く乗らないでいた。二軍から一軍に入る事が出来た黄瀬。しかし黒子の存在が納得できないでいた。自分の方が3Pを決めれるし、どこが自分に足りてないのか解らなかった。自分こそ青峰の相棒に相応しいはずだ。それが彼をイライラさせていたのだった。


「黒子は青峰の相棒でしかないのだよ。それ以外は趣味も何も合っちゃいない」

「それがまた不思議っスよねー」

「だからこそなのだよ。」

「へ?」

「バスケという奴等が真剣にプレーするものだからこそ引き合うのだよ。」

「……わかってるっスよ、そんな事」



黄瀬だって真剣にプレーしている。少なくとも中学入りたての頃よりかは。何をしてもつまらなくて何だって出来る黄瀬にとって青峰の存在が彼の人生を大きく変えたのだ。

(あそこでボールぶつけられてなかったら……)

出会ってなかったらこんなにも熱中できるものを見つけられなかっただろうに。
帰りの用意をする手が止まり青峰の事を考えてしまう。
部室でポテチを食べ続けている紫原を緑間が注意する。


「紫原、食いすぎなのだよ」

「…あげないよ?」

「別に欲しがってないのだよ!」

「あー…2人共、先帰ってていいっス!鍵はオレが掛けておくんで」


「ばいばぁ〜い」


ぱたん、と部室のドアが閉まる。緑間から言われた言葉に面食らっていた。
青峰と黒子の後ろ姿の残像を頭から消す事が出来ずにいる。身長も体格も違う。スタイルも違う2人を引き合わせるバスケが好き、というもの。まるで運命の糸で結ばれているようだった。


ガチャ


「…涼太…?」

「!、赤司っち」

「練習はとっくに終わっているはずだが。」

「え…あ、いやちょっと探し物っス!」


赤司に背を向け自分のエナメルバッグの中を探すフリをした。今の自分の表情が一瞬だけ部室に備え付けてある鏡に写り、悟った。情けない面だった。赤司はこの顔を見て馬鹿にするなんて事は無いが男が部室で泣いてるなんてプライドが許さなかった。


「僕も一緒に探そう。」

「いや別にいいっスよ、す、直ぐ見つかると思うんで!」

「失くした物は…大輝か?」

「‼‼」


天帝の眼は黄瀬の表情を逃す事無く見えていた。日頃から2人を見ていれば解る事だった。的を得ている赤司の言ったことに思わず肩を震わせて驚いてしまった。


「……何言ってるんスか赤司っち。違うっスよ」

「………そうだったな。…」

「青峰っちは……」




「元からお前の物でもなかったな。」


「っ!……は、はは。確かにそうっスね‼」


辛い、辛い。
赤司の言うことは確かにそうだった。最初から自分の物でもないものを追って何になるんだろうか…。無意味な喪失感を感じる必要ない。初めて出会った時から青峰は既に黒子と………。


「哀れだな。」

「…へ、へへっ」


(どうしてそこまでして笑うんだ。)


赤司は黄瀬の前に立ち、しゃがみ込んでいる黄瀬を見下ろした。そして同じ目線の所まで屈むと、


「キセキの世代といわれるお前がそんな顔していいのか?」

「っく…だって、もう……」


黄瀬が話してる途中で彼の頬に手を伸ばし頭を優しく包んだ。赤司らしくない行動すぎて慌てる黄瀬の背中を子供もあやす母の様に撫でると涙腺が緩み一気に涙が零れた。部の主将に身を預けて泣くなんて思ってもなかった。


「テツヤの才能はあいつだけにしかないものだ…涼太にだって魅力はある。」

「…み、っひぐ、…みりょ…くなんないっス…」

「ある。」


一瞬だけ身体を引き離し、顔があと数センチというところで止めた。涙目になり鼻水が出ているのを啜りながら赤司の話を聞いている黄瀬をじっくりと眺めると、


「涼太は、綺麗だ。」

「……きれ…い?…」

「あぁ。例えば…」


体育座りをしている黄瀬の股を優しく撫で始めた。まだ悲しみに暮れている黄瀬は気付かず泣いているが赤司の手が黄瀬の下半身の中心に置かれた時ぴた、と止まった。


「…あ、赤司っち?」

「…ここをこうされると、涼太はどうなる…?…」


制服の上からやんわりと撫でられ何だかもどかしい衝動に駆られた。一体、赤司は自分に何をしているのか考えつかなかった。


「…だ、だめっス赤司っち!…人が来たら」

「誰も来ない。」

「オレこういうの初めてだし、」

「尚更いいじゃないか。」

(どういうことなんスかぁー!?何がいいのかオレわかんねぇんだけど!!)


赤司を恋愛対象として見た事が無いのに、こんな行為をしていいはずがない。しかも皆が使う部室なんかで…という罪悪感が黄瀬にのしかかった。
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