長編小説

□プロローグ
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かつて、まだ幼い頃
その銀色の髪と
紅い目ゆえ迫害されてきた。
〈鬼〉〈悪魔〉
いろいろ呼ばれてきた。
村の住人はそんな俺を恐れ
命を狙ってきた。

なぜ…?
なぜ殺そうとする?
俺はなにもしてないのに…

皆の視線が痛かった。辛かった。


俺に刀を剥けられる。
その時光った銀色が、怖かった。

そして俺は…
生きるため、自分の命を護るため、
皆の視線から逃れるため

刀を手に取った。


襲ってくる村人を斬っていった。

肉を切り裂く音、
刀から伝わる人間を斬る感覚。
その瞬間は一瞬で。
呆気なく命は散ってゆく。
そこから噴き出す真っ赤な血。
飛び散った紅い血は俺の服に、
顔に付着する。
それは生温かくって、
鉄の臭いが俺の鼻を衝く。


ドサリ

人間だったものが、
その冷たい地に倒れた。
その物体を中心に紅い血は小さな池をつくる。

…俺はひとり、その紅い池の中に立っていた。


気づいたら、
もう立ってるのは俺しかいなくて。

さっきまで生きていた村人達は、
地面にひれ伏し。

紅い地獄絵図をつくりだしていた。



どうして…?

なんでこうなるの?

なんで俺の周りには死体しかないの?

俺は命を護ってるだけなのに…


みんな俺のこと殺そうとしてる

なんで?

俺はここにいちゃいけないの?

俺はどうすれば
みんなに認めてもらえるの?

俺はどうすれば
みんなと一緒にいられるの?


俺は…


おれは…


…生きてちゃいけないの?






嫌いだ…
この髪も目も。

この銀色のせいで
この紅い目のせいで

みんなに嫌われる。

この銀色はまるで、
命を奪う刀のようで

この紅い目はまるで、
心も 身体も 風景も
紅く染め上げてしまう血のようだ。

嫌いだ…
自分の存在全てが。

俺の存在価値がわからない…。




*




俺は必死だった。
毎日のように襲ってくる村人を
斬り倒していった。

身ぐるみを剥ぎ、刀を奪った。


餓えに苦しんでいた俺は、
殺した村人からなにか
食べられるものを必死に探した。

なんでもいい。
なにか胃につめられる物を…



そうして俺は毎日を生きていた。
俺の存在価値が見つけられないまま
ただ、生きていた。



そんな俺につけられた通り名は…



《屍を喰らう鬼》







*




とある山に存在する荒地。
周りには何もなく、殺風景だ。

今日、たくさんの村人が
俺を殺そうとやって来た。
どうやら、今日をもって村人総出で
俺を排除しに来たらしい。
俺は逃げも隠れもせず、
無謀な人間達を見ていた。

「今日で鬼の命も終わりだ」

「いかがわしい鬼め、今日こそ貴様の首をとってやる」

「相手は子供。我らの手に掛かれば容易い」

「よくも俺の友人を殺ってくれたな!!」

「お前なんて死んじまえ!!」

「殺せェ!!殺してしまえェェェ!!」

村人達が一斉に襲い掛かって来た。


俺は持っていた刀を鞘から抜いた。
曇天の空の下、刀が銀色に輝く。


そして…





***






さっきまでなにもなかった荒地には、
たくさんの屍が転がっていた。


鼻を刺す鉄の臭いが充満している。

臭いを嗅ぎつけたのか、
カラス達が屍に群がっていた。

屍の身体にある刺し傷からは
紅いどろどろとした液体が
溢れ出ていた。
その大量の液体が、
ひとつひとつの下に小さな
紅い池をつくりだしていた。

そんな屍の傷口にカラス達は
くちばしを無造作に突っ込み、
肉を、内臓を、
引きちぎり食い漁っていた。


まさに、地獄のような光景だった。


その中に、
もぞもぞと動く存在がひとつ。

それは、銀色の髪に、紅い目をした
少年であった。


屍の懐に手を突っ込んでなにかを
探している。

「…あった」

銀色の少年は屍の懐から
なにかを取り出した。
なにやら巾着袋のようだ。
中身をあけると、
握り飯が入っていた。
そう、少年が探していたもの…
命を繋げる大切な食料である。

血が付いていてももはや関係ない。

少年は屍の上に座り
握り飯を食べはじめた。
やっとありつけたまともな食料に
ぱくぱくと食らいつく。



そのせいか、

少年は自分に近づいてくる存在に
気づけなかった。



不意に少年の頭にポンと
手がのせられた。

少年は食べるのをやめ、
それを見上げた。

そこにいたのは、
髪が整っている長髪の若い男。
男は、屍に座ってる少年に
まったく恐れを感じていないようだ。
それどころか、優しく微笑んでいる。
男は少年に声を掛けた。

「屍喰らう鬼が出るときいて来てみれば…君がそう?また随分とカワイイ鬼がいたものですね」

少年は瞬時にその手を払い、
男に凍てつく殺気を放つ。
子供がここまで鋭い殺気を放つとは
普通にできる代物じゃない。

少年は鋭い殺気を放ちながら
持っていた刀を鞘から抜いた。
その刀はいたるところに血が
付着しており、刃が欠けていた。

「それも屍からはぎとったんですか。童一人で屍の身ぐるみはぎそうして自分の身を護ってきたんですか。たいしたもんじゃないですか」

男は自分の腰に差してある
刀を手に掴んだ。
カチャリという音が響く。

少年はそれを見て身構えた。
さっきよりも鋭い殺気を放つ。

そして攻撃態勢に入った。

「でもそんな剣もういりませんよ。他人におびえ自分を護るただけにふるう剣なんてもう捨てちゃいなさい」

そう言うと、男は鞘ごと刀を
腰から抜き取り少年に投げ渡した。

「! わっ…」

予想もしなかった行動に少年は驚き
投げ渡された刀を
なんとか手に取った。

少年は頭の中が混乱していた。
なぜ…?
少年は男に目線でそう伝えた。

「くれてあげますよ 私の剣。そいつの本当の使い方知りたきゃ付いてくるといい。これからはそいつをふるいなさい」

「敵を斬るためではない

弱き己を斬るために

己を護るためではない

己の魂を護るために−」




そう…、これが…。

少年、銀時と 吉田松陽との
出合いだった…。

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