名探偵コナン コ哀中学生編Story
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Story7 髪に白い蝶がとまると
あそこは、1-Bの教室の前だ。
ボクの脳裏に浮かんだ言葉。
あそこは、1-Bの教室の前だ。
その教室は校舎の一番端に位置する目立たない場所で、
また、特別に涼しい風が吹き込む窓も近くにあった。
ボクの調査内では、1-Bには目立ってかわいい女子はいないと書かれていたのに。
1-Bの教室の前には、ボクの知らない綺麗な少女が立っていた。
特別な窓から外を眺めて、
ひとまとめにした髪をさらさらとなびかせている。
スッと形のいい鼻に、かわいらしい小さな顎。
半分閉じた瞼から、長い睫が伸びていた。
その奥には印象的な翡翠の瞳が、なぜか悲しげにのぞいている。
――そして美しい赤髪の上には、白い蝶がとまっていた。
誰だろう。
B組女子に、あんな子はいただろうか。
ボクは興味津々で、彼女に近寄る。
……ひとり、調査した女子がいる。
吉田歩美。
彼女は、吉田さんなのだろうか。
いや、彼女はセミロングの黒髪だから、また別人だろう。
誰だろう。
前に人気子役をやっていたボク、絹川和輝からすれば、彼女を知っておくに越したことはない。
そっと肩に手を伸ばして、華奢な体に手を触れた。
――彼女は驚いたのか一瞬目を丸くし、そのあと小首をちょこんと傾げた。
「キミ、なんて名前なの?」
ボクは迷わず、彼女に名前を問う。
普通の女子なら、ボクのことを珍しがって顔を赤らめるだろう。
なんてったって、ボクは俳優で有名人なのだから。
しかし彼女は、興味なさそうに冷たく言い放ったのだ。
「……あなた、誰? 名前を教えたところで、なにか用でも?」
「お前、ボクを知らないのか!? 絹川和輝だ、俳優の!」
「知らないわ」
彼女はやはり無関心で、ボクにそう吐き捨てる。
「まあ、あなたも名乗ってくれたことだし……私は灰原よ、なにか用があるの?」
はい…ばら?
もしかして、入学式にやらかしたあの女か!?
「お前、あの江戸川と一緒に校長室行きになったアイツか!?」
「ああ…あのときは、本当に不幸だったわね」
「俳優のボクに、あんな礼儀知らずの女なんか相応しくない! …と、調査外として扱ったあの灰原か……」
灰原はムッとして、ボクを睨んだ。
「あのときは不幸だったのよ」
「不幸? なんだそれ、知るか! フン、言っとくけどボクに会いに1-Cに来ても無駄だからな! ボクは断固としてお前と行動は共にしない!!」
「はぁ?」
ボクは「訳分からない」といった顔をする灰原を無視し、自分の教室に戻ることにした。
イライラするから、ドンドンと足を踏み鳴らして。
「何だったのかしら……絹川君とか言ってたわね」
私はどこかへ行ってしまった絹川君を思い浮かべて、また首を傾げた。
確かにかわいい顔はしていたけれど、
それを鼻にかけるのはよくないと思うわね。
そんなことを思いながら、また窓によりかかろうとすると、
廊下になにか光るものが落ちていることに気がついた。
……さっきから人は通っていないようだし、きっと絹川君のものなのだろう。
「なにかしら、あれ」
私はかがんで光るそれを拾ってみる。
「……鍵?」
それは、銀色のアルミでできた小さな鍵だった。
家の鍵には見えないが、キーホルダーがついていることからして、
かなり大切なものなのだろうと予測する。
「……彼、1-Cがなんとかとか言ってたわね」
私はそっと立ち上がり、ふぅ…とため息を吐いた。
「届けに行った方が良さそうね…」