名探偵コナン コ哀中学生編Story
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Story10 ここでも注目される彼は
「やっぱさー、初めはサッカー部だよなっ!!」
小嶋君がグランドを指してそう叫んだ。
サッカー部は、少し離れた場所から見ても人気があることがよく分かる。
ゲームをプレイする部員の周りに、たくさんの一年生が群がっていた。
「サッカー部……私じゃあ縁がなさそうだけれど」
私がそう呟くと、歩美ちゃんがそんなことない!! と首をブンブンふった。
「あのね、サッカー部ってイケメンが集まるっていう素敵な部活なんだよ!! だから、サッカー部のマネージャーになりたがる女の子って少なくないの!!」
歩美ちゃんの解説の次に「きゃ―――っ!!」と黄色い声を上げている女子を見て、なんだか妙に納得してしまった。
たしかに、女の子も入りたがるだろう。
「おっしゃ――っ!!」
「見学してみましょう!!」
「そーだねっ!」
走ってサッカー部に向かう小嶋君と円谷君、歩美ちゃんのあとを小走りで追いかける私と江戸川君。
「あなた、サッカー部に入るんでしょう?」
「まあ、現役12歳のオレだったらサッカー部だったな」
そう言って肩をすくめる江戸川君。
江戸川君がサッカー部じゃないということを聞いて、一瞬固まってしまった。
あまりにも、意外すぎた。
その場にボールがあれば、必ずポンポーンと足で蹴っているという彼なのに。
「なら、江戸川君はどの部活に入るのよ。決めたの?」
歩美ちゃんたち三人に追いつき、サッカー部員たちを眺めながらそう問う。
「決めたと言えば決めた。決まってないと言えば決まってないな」
「なによそれ、答えになってないわ」
江戸川君の回答に、顔をしかめる自分がいる。
――もし江戸川君がサッカー部に入ると言ったなら、私はきっとマネージャーをやっていた。
そんな自分が、どこかにいる。
「具体的に教えて」
「ん? そーだなぁ、」
バスケ部だろうか。
陸上部だろうか。
なぜか、運動部に入るというイメージが強い江戸川君。
なのに――
「灰原の入る部活に入る」
そんな答えが返ってきた。
「あら、なら私合唱部に入ろうかしら」
「うげっ、それはマジ勘弁」
「ならフォークソング部ね」
なぜか江戸川君をからかう私。
本当は彼がそう言ってくれたことが物凄く嬉しいはずなのに。
「……素直じゃないわね」
小さく呟いた私。
彼の片頬がほんのり紅潮したことに、気づきはしなかった。
サッカーの試合に夢中になっていたしね?
「……素直じゃないわね」
そう呟いた灰原。
なぜかオレは予想以上に嬉しくなって、予想以上に恥ずかしかった。
そう、赤面するほどに。
「あ、灰原さんっ」
となりにいた灰原に、なぜか声がかかる。
「はい」
灰原が振り向くと、そこには何人かのジャージを着た先輩たちが立っていた。
「……私、またなにかやらかしました?」
オレをチラチラみながら灰原は苦笑する。
ンだよ、確かに灰原がやらかす時は大体オレが共犯者だけどさ。
「そんなんじゃないわよw」
すると先輩たちは大笑いして、灰原の頭をくしゃっと撫でた。
………女だったから、許す。
「灰原さん、あなた1-Bの中で一番足の速い女の子でしょう?」
「そうなんですか、初めて知りました」
素っ気なく返す灰原。
「知らなかったのかよ…」
思わず突っ込むオレ。
灰原はムッとこちらを睨んできた。
「悪かったわね」
「悪くなんてないさ」
オレを睨んでいた灰原に、もう一人の先輩が話しかけた。
「俺は陸上部の部長なんだ。知ってるかい? 1-Bって運動神経がいいクラスなんだよ」
「それは…どうも」
「その中で灰原さんはトップクラスだから、ぜひ陸上部にスカウトしたくてね」
「はあ…そうですか」
灰原はそう言って、陸上部部長にペコンと頭を下げる。
「わざわざすみません」
「いーのいーの! あ、そうそう江戸川君もどぉ? 君は男子で一番、じゃなくてクラスで一番っていう単位でしょ?」
クラスナンバーワン?
まじで、オレが?
――確実に、ちょっとテンションが上がった。
「今この時間で体験入部はありっすか!?」
「ちょ、江戸川君!?」
灰原はオレを止めようとしているけど、ンなこたぁ関係ねぇ……!!
「いいよー」
ふっつーに答えが帰ってきたから、オレは陸上部の活動場所に一目散に走った。
「彼、はやいねぇ〜」
「運動神経はサル並ですから」
――灰原が今、ひっでーことを言った気がする。
「わっはっはっ!! オレ、もう陸上部の神だっ!!」
「いいえ、ただの馬鹿にしかすぎないわ。制服で全力疾走する人なんてあなたしかいない」
私はトラックの真ん中で高笑いする彼を冷たくあしらった。
江戸川君は今、見事に100メートルを制服で13秒で駆け抜けた。
よくやるわよね…制服で。
ちなみに私は、近くのベンチ(もちろん日陰)で涼んでいた。
大して運動もしていないけれど。
「すっげぇー…」
「アイツ、一年の江戸川だろ?」
陸上部を見学していた一年生から、そんな歓声が上がる。
そして、さらに調子にのる江戸川君。
「灰原、どっちが速いか勝負しよう――」
「私の負けです、許してください」
「――やりたくないだけだよな? 内心『めんどくせぇ』とか思ってるだろ?」
「超能力まで持ってたのね…」
ええ、面倒くさいことはやりたくない主義なのよ。
すると、陸上部の部長さんが私のとなりに腰掛ける。
「灰原さん、君100メートル走何秒?」
「1時間32分59秒です」
「嘘だよね?」
部長さんは苦笑いして「本当のこと教えて」と迫ってきた。
ハッキリ言って、忘れた。
そんなデータ、知ってても得はないし。
「多分、江戸川君が知ってますよ」
「自分の記録なのに?」
「いちいち覚えられません」
私は頬杖をつきながら、部長さんにそう答えた。
江戸川君をぼぅっと目で追ってみる。
……本当、いつの間にか追ってしまうのよね。
「江戸川君、」
私は陸上部員にちやほやされている江戸川君を呼んでみる。
「んー? なに、灰原ぁ?」
「私って、100メートル走何秒で走ったか、知ってる?」
「12秒07!! 覚えとけよー」
「ありがとう」
私は部長さんに向き直り、言った。
「だそうです」
「速いね〜」
「ただ私、体力はほとんどゼロですよ? すぐバテます」
陸上部っていうのは、どうやらハードな部活らしい。
さっきから、筋トレだとかなんだとかをやっている部員を見かける。
汗が滝のように流れている彼らのマネは、私には到底できない。
だから、早く断らなくちゃいけないの。
「あと、少し病弱気味なので、体育の時間は休んでたりしますし」
これは本当。
まあ…このことを理由によく体育をサボるのが私だけれど。
きっと、ここまで運動に向いていないということを教えれば、勧誘はやめてくれるだろう。
――しかし。
「へぇ、病弱ねぇ。……まあ、そういうのがある方がかわいいと思うよ」
「は?」
「やっぱ灰原さん、陸上部入らない?」
私には、理解不能。