2人のみこ

□御子と神子
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「シンジ!久しぶりだな!」


サトシが、自らがシンジと呼んだ少女にあふれんばかりの笑みを向ける。
シンジと呼ばれた少女も、うっすらと笑む。
ピカチュウや周りにいる神々たちも、慈愛に満ちた目をしていた。

しかし、愛すべき友人に牙を向けた人間には、凶悪なまでの鋭い視線を向け、今にも飛びかからんばかりの怒気を放っていた。


『シンジ、あの愚かな人間どもを蹴散らしてやりたいんだが、』
「待て、アルセウス。ミュウ、あいつらをテレポートで飛ばせ」
「みゅ!」
「みゅみゅー!」

「――――――――――――――――っ!!!」


2匹のミュウが、サトシに攻撃しようとした大人たちと、そのポケモンをテレポートで飛ばす。
どこに飛ばしたのかは、本人たちにしかわからない。
大人たちは悲鳴すら上げる暇がなかった。
2匹は楽しそうに笑っている。かわいらしい容姿をしているが、存外無邪気に鬼畜なミュウたちのことだ、えげつない場所に飛ばしたことだろう。
そんな性質を持つことを知っているにもかかわらず指示を出したシンジもなかなかに鬼畜である。
その性質はアルセウスも承知済みである。自分で制裁を加えることができなかったことに不満を感じないでもないが、手酷い目に会っているだろうことは手に取るようにわかっているので、どこか満足げであるのも確かだ。


「ありがとう」
「みゅー!」
「みゅみゅ!」


ミュウに頬ずりされ、シンジがくすぐったそうに眉を寄せる。
それを微笑ましげに見つめ、ルギアがサトシに向き直った。


『ところでサトシ、お前の後ろにいる者たちはお前の知り合いか?先ほど、お前に声をかけていたが』
「ん?ああ、俺の旅仲間とライバルたちだよ!みんなに紹介するぜ!シンジも降りてこいよ!」


唐突に自分たちの話題を向けられ、デントたちの肩が跳ねる。特に、サトシを格下だと侮ってきたシューティーたちは。

ミュウのサイコキネシスで、ミュウとともにシンジが下りてくる。
降りてきた瞬間、待ってましたとばかりにサトシとピカチュウに抱きついた。
自分より体格のいいサトシと平均体重のピカチュウに抱きつかれ、思わずよろめくが、その細い肩をセレビィとラティアスがそっと支え、倒れることはなかった。


「久しぶりだなぁ、シンジ。次に会えるのはもうちょっと先だと思ってたんだけどなぁ・・・」
「お前のことだから何の考えもなしに吹いたんだろうが・・・、お前があの曲を吹いたから俺たちが来たんだ」
「え?・・・あっ」


嬉しそうな顔が一変し、しまったというように顔をゆがめるサトシ。そんなサトシの様子を見て、シンジがため息をついた。


「まぁ、そのことはもういい。それより、あいつらのことを紹介してくれるんじゃなかったのか?」
「あ、そうだったな」


抱きつかれ、腕の上げられないシンジは視線でケニヤンらを示す。丁度目のあったラングレーがぎくりと体を硬直させた。
サトシはシンジの体を離し、シンジの手を引いて、彼らの前に立った。


「シンジ。右からデント、ラングレー、カベルネ、アイリス、シューティー、ケニヤン、ベルだ。デントとアイリスは今の旅仲間なんだ!」
「・・・お前は一人旅ができないのか?」
「いつの間にか増えていくんだから、仕方ないだろ?ほら、シンジもあいさつ!」
「・・・トバリシティのシンジだ。と、言っても、聞こえていないだろうな」


放心状態のベルたちを前に、シンジが小さくつぶやく。
呆然として、どこかうつろな状態の彼らには、自分たちの声が聞こえているかも怪しい。むしろ、自分たちが目の前に立っていることに気づいているかどうかすらもだ。


『我らが友人と娘の言葉を聞き流すとは、なんと高慢な・・・』
「「「っ!!!」」」
「き、聞こえてます、聞こえてます!と、トバリシティってどこだろうなぁって考えてたんです!!!」


アルセウスに言葉に、アイリスがひきつった笑みを浮かべながら取り繕う。周りがそれに便乗する形で大きくうなずく。
明らかな言い訳に、アルセウスもわざとらしくそうかと呟く。ミュウはひきつった笑みを浮かべるイッシュのトレーナーたちを見てくすくすとおかしそうに笑っていた。
返事がなかったことに首をかしげていたサトシは、納得したようにうなずいた。


「トバリシティはシンオウ地方にある街だぜ!」
「じゃ、じゃあ、シンジさんはシンオウからイッシュに来たのね〜」


恐怖と緊張からか、サトシの答えに返事をしたラングレーの声はひきつっている。これでは話にならないと、シンジがため息をつく。


「お前たち、いったん反転世界に戻ってくれ・・・」
「きゅるる!?」
「ぎゃああああああああああ!!」
「ぐおおおおおおおおおおお!!」
『何故だ、シンジよ』
「みゅみゅう!」
「レビィ!」
「きゅうううん!!!」
『お前が望むなら、そうしよう』


シンジの言葉に反論する伝説と呼ばれしポケモンたち。
(伝ポケの良心にして、保護者ポジションの常識人ならぬ常識ポケモンたるルギアは除く)
本人たちは不満を持っていたり拗ねていたりするだけなのだが、彼らと対面するのは初めてであるイッシュのトレーナーたちには怒りの咆哮にしか聞こえない。あまりの恐怖に震えあがり青ざめている。
双方の様子にシンジはため息をつき、肩をすくめた。


「お前たちがいては委縮してしまって話もできん。不満なら、後でサトシとともにそちらに行く。それで勘弁してくれ」
『しかし・・・先ほどの人間たちの様に攻撃してこようとするかもしれん。そのような危険な場所に、お前たちを置いていくことはできん』
「私がそんな輩に後れを取ると思うか?」
『そんなことは・・・。ただ、心配なのだ』
「・・・ミュウ、お前たちが残れ。お前たちなら他のポケモンに変身できるだろう」


アルセウスはおろか、後ろに控えていたディアルガやパルキアまでもが、心配そうな表情を浮かべている。
愛する娘や、もはや息子といっても過言ではない友人たるサトシを危険な場所に残していくのは不安なのだ。
彼らと心が通じているシンジは、思わずため息をつき、ミュウたちをそばに招いた。
自分たちが選ばれたことに、ミュウたちは嬉しそうにしている。


「きゅううううん・・・」
「きゅるるるるるる・・・」
「ぐう・・・」
「ぎゃあ・・・」
「レビィ・・・」
『くっ・・・!何故私は変身が使えぬのだ・・・!』
『落ち着け、アルセウス。あまりしつこいとシンジに嫌われるぞ』
『それは嫌だ』
『それほど心配なら、パルキアに結界を張ってもらうのもありだろう。構わぬか?』
「・・・妥協してやる」
「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


不満げな神々をルギアがなだめる。
パルキアはシンジのお許しが出たとたん辺りに結界を張り巡らせる。アラモスタウンで張った結界と同じで、この森に入るといつの間にか元の場所に出てしまうというもの。しかし、前回とは違い、霧は出ていない。


『これならばみなも安心だろう。我らの姿は見えてしまう故、早々に立ち去ろう。では、シンジ。私たちは反転世界に戻る。何かあったら、すぐに私たちを呼ぶんだぞ?』
「わかってる。さっさと行け」


名残惜しそうにギラティナが反転世界への扉をあける。他の神々もそうなのだろう、皆一様に、一度振り返ってから反転世界へとはいっていく。
彼らがしっかりと反転世界に入ったことを確認し、シンジは空を見上げた。


「お前もだぞ、ホウオウ」
「くるるるるる・・・」


虹色の光が尾を引く美しい翼をもったポケモン―――ホウオウが不満げに鳴く。
新たな伝説のポケモンの出現に、ベルたちは悲鳴を上げそうになる。しかしそれはお互いの口をふさぎ合うことにより、何とか回避した。おそらくではあるが、ここで悲鳴なんて上げようものなら、ホウオウの怒りを買いかねないからである。
その存在に気づいていたのは同じく伝説たるポケモンたちとシンジだけのようで、その存在に気づいていなかったサトシとピカチュウは目を丸くした。


「ホウオウまでいたのか・・・」
「ぴかちゅ・・・」
「お前たちは気付いてやれよ・・・」


ミュウたちのサイコキネシスに捕まり、反転世界に投げ込まれたホウオウを尻目に、シンジはがっくりと肩を落とした。





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