1†心と鍵†
□‡序章‡
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ーー真っ暗な世界だった。
暗闇の空間に、一人で立っていた。
周りには何もなく、音一つ聞こえない。どこまでも深い闇が広がっている。
ただ暗い……無の世界みたいな感じにも思えた。
どうしてここにいるのか、ひとりぼっちなのか、わからない…わからないのに自分が一番知っている気がしてーー。
暗闇が苦手なはずなのに、不思議とこの場所は落ち着いた。
とりあえず先に進んでみる。
すると、遠くに小さい一筋の光が見えて、向かって駆け出した。
だけどそれは、小さな光ではなく人の姿のようで、あたしは足を止めた。
『え……』
視界がぼやけてはっきりと表情は見えないが、鈍い光を放っているその人はーー悲しそう微笑んで、涙を流している様に見えたから。
『泣いてるの…?』
思い切って一歩踏み出すと聞いてみた。
ーーその時、視界が歪み、まぶしい光が広がる。
ピピピピッ… ピピピピッ…
早朝。
目覚まし時計の無機質な音が鳴り響く。
『…ん』
ゆっくりとまぶたを開くと、いつもの自分の部屋の天井が目に入って、カーテンの隙間から日差しが差し込んできてまぶしい。
『ふぁああ〜』
まみはベッドから体を起こし、枕元に置いてある目覚まし時計の音源をオフにすると、大きく欠伸をした。
『えっと…なんだっけ?』
まみは今見た夢を思い出す。
なんだか怖い夢を見ていたような気がする。
怖かった……?ううん。
どこか遠くに感じ、懐かしかったような気もする。
闇の中とあの人の涙ーー。
あれは本当に夢だった?
『…ま、いっか!』
まみは気にせず、ベッドから降り、パジャマを脱ぎ捨てて着替え始めた。
梅雨が終わり、いよいよ本格的な夏を迎えるこの時期。今日から学校は夏休み。
部活が休みのこの日は、幼なじみである親友のヒカルと一緒にゲームをする約束をしていて、学校の図書室で宿題を教えてもらう事になっていた。
まみは身支度が済むと、大きく窓を開け外の空気を取り込む。
『おっ、いい天気だ』
快晴、どこまでも続く青い空。
こんなに明るい空の下だから、さっきみた不思議な夢が嘘のように思えてくる。
『たまには早起きも悪くないな、いいことあるかも!』
まみは上機嫌で、ラックに数ある中からある物を取り出した。
それは、一つのゲームソフト。
タイトルは「KINGDOM HEARTS」
まみが毎月のお小遣いを貯めて買った物で、一番の宝物だ。
「まみー!!起きたの?ご飯出来てるわよ〜!」
一階の廊下から元気な母親の呼ぶ声がした。
『はーい!今いくー!』
ひとまずゲームの準備し終わると、まみは早めの朝食をとりに部屋を出た。
今日も新しい一日が始まるーー。
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