□花火
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「さぁ…何でだろうな?」

不敵に笑う高杉は
本当に何を考えているのかわからなかった。


ただ心底幸せそうに笑っていた。


「殺されるなら…どうせならお前の手で、そう思っただけさ」





嘘だ。





そんな陳腐な言葉、あんたは言わない。






部隊到着まであと3分。





あと3分したら高杉は…





初めて、俺は焦りを覚えた。


このまま死なせれば永遠に高杉の真意がわからなくなる。




俺は無線機に手を伸ばした。



「無駄だ総悟…ほら」



遠くで太鼓と笛の音がした。


どこかで祭りでもやってるのだろう。


俺は訳がわからずに高杉の顔を仰ぎみた。

「お出ましだぜ?」


肩越しに無数の明かりが見える。提灯も出しているのか。


一部の明かりが近づいてきた。


「……っ!」


違う、祭りの提灯じゃない。


「自分で呼んでおいて何を驚いてるんだ…」


愉快そうに言う
狂人。



全部


全部計画の内だったってことなのか。



「…逃げろよ…」


何で逃げないんだ



「俺を殺すんじゃなかったのか?…俺に勝ちたいんじゃなかったのか?」



俺は言葉をなくした。



そうして祭りは進んでいく。


何一つ俺の意思とは関係なく。



「やめ…ろやめ…」




止まらない




幾つもの銃口がこちらをむいていた。



「―――っ――」




近藤さんが何か言ったけど何も聞こえなかった。



代わりに視界が鮮やかな花の色で覆われた。



高杉に抱き締められている。




「じゃあな…総悟」



高杉の声が聞こえた。


そしてしっかりと耳と目を覆われ、




次に五感が効くようになった時には高杉の声も姿もなく、代わりに夜の空には真っ赤な花火が咲いていた。




現実が戻ってくる。


足元に力なく倒れる幻を俺は意味もなく腕に抱いてみた。




結局。


何一つわからないまま
何一つ手に入らなくて




完全に俺の負けだった。




腕に抱いた高杉の脱け殻は相変わらず笑っていた。


それは愉快そうに。

end

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