□第72話
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皆が救われるなら


俺はいいよ



幸せになってくれるなら


俺も幸せなのだから












世界が沈黙で支配される。

驚愕のあまり、皆が動けないでいた。



シンシンとそんな様子を嘲笑うように光が降り積もる。

光に満ちた世界。






蛍が愕然とした様子で途切れ途切れに尋ねる。


「ルカ君、あなたいつから……」

「最初から。
佐倉が逃げてくれるのならって俺は……引き受けたのに。」


流架は崩れ落ちる。

連絡をとろうにも、もう蜜柑が返事をすることは無かった。
どんな気持ちで俺の呼び掛けを聞いているのだろう。
まさかもう、といやな考えが流架の思考を駆け巡る。






「……疫病神の無効化が。許さない。
今まで積み重ねてきたもの全てを滅茶苦茶にして。
どんな思いをして私が……っ。
どこだ、佐倉蜜柑はどこに居る。言え!」


こんなにも激昂している初等部校長は初めて見るものだった。
何らかの作用により震える体を五島に支えられながら、怒りの眼差しを流架達の方へと向ける。




「どういうことだ。ルカ。」

「……佐倉が計画を実行した。
なんで……っ別れの言葉なんか!」


流架の嫌な予感は当たったことになる。その勘を信じて、蜜柑を止めるべきだったと絶望した。
そういえば前に、計画に協力しても後悔すると言っていたことを思い出した。
この事を言っていたのか、と。


今更気付いても遅い。流架は震える自分の手を見た。



「……計画ってなんのことだ。ルカ!」


棗は思わず流架の肩を掴み揺さぶった。
力無い流架の様子に焦る。





「無効化によるアリスの無い世界のための計画。……先生が、前に言ってた。
無効化は無に繋がるアリス。アリスを消し去ることも可能なんじゃないかっ……て。
ただ成功する確率は、限りなく少ない。」




柚香は震える声を抑えながら話す。
心残りはあった。
けれど蜜柑を犠牲にしてまで柚香は生きていたくなかった。
柚香には蜜柑しか残されていなかったから。

先生に続いて蜜柑まで死んでしまえば、もう耐えられない。
だから柚香は必死で何かを知る流架にすがった。



「お願い!蜜柑の居場所を教えて!」

「…………知らな……い。
佐倉、いつもはぐらかしていたから。
こんなことなら……っ」




協力なんてしなかったのに!



さよなら、だなんて。
それは言葉にならず、流架自身の中で激しくのたうち回った。



「役立つが……っ早く探せ!」


初校長の焦った吐き捨てるような声。
彼を守るようにしていた結界が薄れ始めていた。
それはアリスが消える徴候なのか。



「お願い、誰か蜜柑を止めて!
このままだと手遅れになる。
……蜜柑まで私から奪わないで…………っ」


柚香の叫びに流架は俯いた。
無力な自分に。
最悪の事態に。
何も出来ない自分自身のやるせなさに。

探そうにも探すのには謎が多く、広大すぎる学園に途方にくれる。

光の強くなってくる辺りに時間が無いことが現れている。







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