□初夢の奇跡
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【初夢の奇跡】


side.翼




誰かが俺を呼んでいる。
優しい、温かい、日溜まりみたいな声。


「蜜柑…………。」

『どうした、安藤。』


余りにも優しい声に泣きそうになる。
何故だかよく分からない。

俺は何かを必死に蜜柑に向かって訴えている。


「お前どこに行ってるんだよ。
皆心配してるんだぞ。」

『もう俺は近くに居ないんだよ、安藤。』

「……え、今もこんなに近くに居るのに何でっ。」

『もう、分かってるんだろう。』


よく見たら蜜柑は半透明な存在だった。
そんな、まさか。

悲しげに笑う蜜柑。

手を伸ばせば触れることが出来た。
少しその事にほっとする。


「俺達は生きてる。」

『…………ああ。知ってる。俺は嬉しいよ、それが。』

「ずっとあいつらの前では平気な顔してきたけど、本当は凄い不安なんだよ。
泣き叫びたいぐらい、どうしていいか分からない。
でも俺はあいつらの先輩で弱い姿なんて見せらんねえよ。」


思わず座り込む。
恥ずかしい。何でこうなったのか分からない。

蜜柑が居なくなってがむしゃらに生きてきて、ふと落ち着いてみると何にも無かった。
だけど、皆の前では格好をつけなければならなかった。

まだ全員が立ち直れている訳ではなかったから。


『ああ。いいこだ、翼。
翼はよく頑張った。俺はそれを知ってるから。』


静かに、柔らかく頭を撫でられる。
蜜柑の甘い声に涙腺が決壊した。

蜜柑に抱き締められるままにその肩へ顔を埋める。
蜜柑の体の温かさは感じられなかった。


でも、俺の心を満たす何かがあった。



光が溢れ出す。
もう終わりなんだ。

蜜柑の名前を必死に叫ぶ。



―し……わせ……て……―

―ずっと、みま……て…から―






最後に蜜柑は何かを言ったような気がした。





会いたいのに、もう会えない。

何故お前はここに居ないんだ。




伸ばした手は何も掴まなかった。







はっと目を開けると朝だった。



昨日遅くまで大掃除をしていたため寝たのはかなり遅かった。

……夢。

頬が何故か濡れていた。



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