If 〜君と過ごす日々〜

□第3話
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学園一日目。

朝、棗達三人はクラスの前で待たされていた。
担任であるユッキーはずんずんと進んでいってしまった。

委員長や心読み、スミレなどの懐かしい面々に会うことを楽しみにしていたのである。変わらないであろう昔のメンバーを思い笑みを溢した。


「おう!全員揃ってるかー?」

「先生ー転校生が救世主の人達って本当ですかー。」

生徒の言葉に教室内がざわつく。情報の回りが早いのは流石アリス学園といったところだ。

「三人共入ってこい。」

三人が教室内に入ると静まり返った。
好奇心、尊敬、嫉妬、恐れ、敵意。
様々な感情が入り交じった視線が注がれる。三人の態度は堂々たるもので、クラス内の誰も言葉を発する事が出来なかった。空気に呑まれたともいう。

ただ、多くは決して好意的な視線ではなかった。

「乃木流架です。よろしくお願いします。」

「今井蛍よ。写真のことなら私に言って頂戴。安くするわ。」

「………………日向棗。」

ある意味個性的な自己紹介に教室が固まった。それも束の間で、探るような、見極めるような瞳に晒される。
ひそひそと何かしらを囁きあっている。

「みんな仲良くしろよー。あと今日は生徒集会があるから移動するように。」

棗達は近くの席だった。鬱陶しい程の視線は無遠慮に注がれ続けている。
ただ、窓際の一つは空席のままだった。





三人の方へ初等部で一緒だった面々が集まってくる。
委員長は感激のあまり泣きそうだ。再会は嬉しくもあり、複雑でもあった。けれど、今この時だけは喜の感情でも良い気がした。

「お帰り。蛍ちゃん、流架くん、棗くん。」

委員長の言葉を口火に次々に言葉をかけていく。

「待ってたわ〜!棗君、流架君ファンクラブは不滅よ。
棗君に貶されない日々なんて考えられないわー!」

「ドMか。
あははは、パーマ気持ち悪い。」

相変わらずのスミレと心読み。仲がいい事が窺える。二人は絶対に否定するのだろうが。
喧嘩するほど仲がいいとはこの事だろう。

「棗さん、お帰りなさいっす。」

「ののこちゃんとお祝いのケーキを作ったんだー。蛍ちゃん後でたべてね。」

「アンナちゃんの自信作なんだよ!」

昔の棗の取り巻きだった持ち上げ君やアンナやののこも嬉しそうに話し掛ける。
昔に戻ったような光景だった。

だが、足りない。

それは全員が分かっていた。




「学園について軽く説明しようか。」

委員長が穏やかに語りだした。
それを聞けばこの視線の意味も分かるような気がした。突き刺さるような、歓迎的ではない瞳の意味を。

「今の学園は力が全てなんだ。力で上まで上り詰める事が出来る世界。」

「………アリスの能力が強かったらいいのか?」

「ううん、そうじゃないんだよ棗君。アリスもそうだけど、それだけじゃなくて戦闘能力の高さが僕たちには求められている。」

ガラリと変わったような体制に棗達三人は困惑する。
この学園について見えないのが現状だった。
引き継ぐようにスミレが説明を始める。

「この学園は頂点である学園生徒会、プリンシパルで成り立ってるわ。戦闘能力クラスのトップランカー。」

「パーマ、戦闘能力クラスについて説明
してないよ。」

「今しようとしてた所よ。黙らっしゃい!
戦闘能力クラスは実技的なもので実戦で使えるような戦いかたを学ぶわ。
入学して暫くしたら行われるクラス分け試験でクラスが決定されると思うの。」

「アハハハ。これはね、棗君。学園は前の学園みたいに危険能力系のような小さなものじゃなくて軍隊を作ろうとしてるって噂だよ。」

楽しそうに笑う心読みに棗は恐怖しか感じなかった。不用意な発言をしたからかパーマに頬を引っ張られている。
いひゃひゃひゃひゃ、というなんとも情けない声を上げる心読みを助ける者は居なかった。


「委員長、後で詳しく学園について説明して貰えないかしら。」

「いいよ。久しぶりにこんなに話せて嬉しいな。
ここでは言えない事もあるから蛍ちゃんの部屋に………って、昔みたいに部屋に行くわけにはいかないよね。ごめん。」

「そんなこと気にしてるの、バカね。
大人になっても私達はずっと大切な友達よ。」

委員長はふわりと笑った。ただ、変わらない絆が嬉しくもあり、苦しくもあった。

「ありがとう。蛍ちゃん。」


そうして、全校集会に参加すべく元初等部メンバーは歩きだした。




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