頂き物小説

□積極的な彼女は、嘘
1ページ/1ページ







真夏の日光が降り注ぐ中、2人は歩いている。
汗が流れ落ち、服も汗のシミができてしまっている。


「もうすぐやから、我慢してや」
「…それ何度目だよ」
「………ご、5回目…だったかな…?」

苦笑いを浮かべて、あははと渇いた笑みを浮かべる蜜柑。
棗は何度目か分からないため息をついた。


夏本番でもっとも暑くなる中、何故よりにもよって山の中を歩いているのか。
結婚してからの初里帰りの最中だからだ。
彼女の故郷は山奥のド田舎。
そんな所から小学5年生で学園がある都会に来たのだから、びっくりだ。
普通右も左も分からない場所に来る勇気なんて、そう簡単にはできない。


ふと前を歩く彼女の姿をじっと見つめている自分に気付く。
たまにぐらりと倒れそうになりながらも、しっかりとした足取りで歩く彼女。
後ろで見ていて内心ハラハラする。

暑いからといって先ほど髪をあげた時に姿を見せたうなじ。


とても細くて白い。

そこに意識が取られて、少し考え込む。

学園にいた頃からあまり変わらない関係。
結婚したからといって何が変わるわけでもなかった。
いつも一緒にいる。それは変わらない。

けれど、どこかで自分がさらに貪欲になっていった。



少しは彼女から迫って欲しい。

などという、無理難題を考えてしまうほどに。

「っ………!!」

急に両肩に何かが触れ、それに押し倒された。

一瞬のことで、反応できなかった。


今自分の上に馬乗りになっているのは、蜜柑。
両肩を押さえつけられて、動けない。

動こうと思えば動けるが、蜜柑の見つめてくる瞳に思考が止まった。


蜜柑の顔は暑いせいか、赤く染まっていた。
瞳は真剣な眼差しをしている。
視線は絡み合い、短いようで長い時間が流れる。

蜜柑の顔がだんだんと近寄ってきて、あと数センチという所で止まった。

「み…」
「黙って…」

呼びかけた声も、甘い吐息を伴った声にかき消される。

学園の時には見えなかった大人の彼女が姿を覗かせる。
普段は子供っぽい幼さしか見せないというのに、それは突然姿を見せる。


棗も考えていたことが現実になり、頭が混乱している。
普段の蜜柑ならこんな事は絶対しないし、できない。



ならなぜこんな行動を取っている?

答えは見つからない。


いろいろと考えているうちに、蜜柑が一つ息をついて上体を起こす。

「あぁ、もうびっくりしたぁ…」
「は…?」

…何を言ってるんだコイツ。
ビックリしたのはむしろこっちだ。


意味が分からなくて、蜜柑に訝しげな目を向ける。
その視線に気付き、ゴメンと苦笑いを零して棗から立ち退く。
棗も立ち上がり、どういうことだと聞いた。

「あんな、さっき棗の頭上に蛇がおってん」
「蛇がいた?まさかそんなこと…」
「あるんや。ここらへんだと」
「お前、それで俺を押し倒したのかよ…」
「なっ人聞きの悪いこと言わんといてっ」

期待していたのと全く違う答えを聞いて、ため息をついた。
蜜柑は顔を真っ赤にして、少々焦点のずれた所で反論した。

「ここで俺を押し倒すとは変だな、とは思った…」
「だからっ違うってゆーとるやろっ」

こんな些細なことで赤面してしまう彼女を可愛いと思ってしまう。
子供のようで大人な彼女が、たまに分からなくなる。


もっと彼女が欲しい。

結婚して、法律というもので互いを縛り付けてもまだ足りない。
日々貪欲になっていくのが分かる。

「蜜柑」

名前を呼ぶと、きょとんとした顔をして見つめられる。
ゆっくりと近づいて唇を重ねれば、彼女も瞼を閉じて応える。
だんだんと激しくなり、深いキスになる。


窒息してもらっては困るので、その前に離れる。
開けられた瞳には、まだキスの余韻が残り潤んでいる。

「たまには、お前からもしてこいよ」

意地悪く耳元で囁けば、腕の中でふるふると首を振って拒否される。
その振る舞いは、子供だというのに。




「棗にしてもらうのが、好きなんやもん…」

艶やかな唇を動かして紡ぎ出される言葉は俺の心を奮えさせる。


彼女は知っているだろうか?
それだけで満たされる自身の心を。


いつもよりも少しだけ物足りないけれど。

行動だけでなく言葉をもらうのも、たまになら悪くない。





積極的な彼女は、嘘
(無意識に迫る彼女ほど、驚くものはない)










新婚設定でギャグを入れた(つもりの)お話でした。人気のない山中で蜜柑が棗を押し倒す。なぁーんてちょっとありえない話ですね(笑)でもあったら面白いかも、とか思いつつ書かせていただきました。しかもあんまし(どころか全く)新年関係ない気が…!いや、考えちゃいけません!私の趣味全開な作品ですが、楽しく読んでいただければ、幸いです。

From.胡蝶

[2010年01月01日]




頂いちゃいました<*^^*>
天然蜜柑ちゃんが可愛いいです!
ありがとうございます。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ