求めたものは

□6章
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再び私が目を覚ますと見覚えのない天井が見えた

「あ、目が覚めたかい?」

「花京院…、ここは?」

寝起きのまだはっきりとしない頭で問う

「シンガポールのホテルだよ」

「じゃあ…あの後救助が来たんだ…」

はい、と私に水のペットボトルを渡して花京院は隣のベットに腰掛けた
それに礼を言って口をつける

「今の君が1人部屋だったら敵に襲われても対処できないだろうからってジョースターさんがね…」

一泊の予定らしいから我慢してくれと苦笑する

「そう…よろしくね」

「うん、敵が来たら僕が守るから安心してくれ」

穏やかな笑みを浮かべて花京院は言った

…僕が守る、なんて一昔前の口説き文句みたいだと思って
少しだけ懐かしい気持ちになり、私も少し笑った

「それで…ね、その、君が良ければ少し話さないか」

「…私と?」

唐突な申し出に目を丸くする

「うん、君には何度もお世話になっているのに今までゆっくり話す機会がなかったから…」

ダメかい?と軽く首を傾げる様子も様になっている

「私で良ければ、いくらでも」

「よかった、断られたらどうしようかと思ったよ」

また優しく微笑む花京院
…こう柔らかい笑顔ばかりを向けられるとどうにもくすぐったい

「涼も生まれついてのスタンド使い…なんだよね」

「そうみたい、も、ってことは花京院も?」

その問いに頷いて言葉を続ける

「僕は最近まで自分以外にスタンドが見える人間にであったことがなかったんだ」

花京院は何処か遠くを見ながらさらに続けた

「自分だけには見えて他の人には見えない、…それもあってか僕の友達はハイエロファントグリーンだけだった」

いつの間にかその傍らには碧色の分身が寄り添っていた

その存在に微笑みかける花京院を見て半ば独り言のように呟く

「花京院は…ハイエロファントグリーンのことが大好きなんだね」

「うん、僕の大切な友達さ」

君にとってのダーティーハートは違うのかい?と花京院に問われる

その問いを聞いて唇を強く噛む

「……い」

「…え?」

吐き捨てるように言い放つ

「嫌いだよ、こんなやつ」

こんな…醜い存在

血を吐くように言い捨てた

「…涼」

「歪で、気味が悪くて、汚くて、」

こんな存在が私の精神の具現化だなんて、吐き気がする

「…貴方達が羨ましい」

皆のスタンドは気高くて、美しくて、誇らしい、そんな存在なのに

どうして私だけ

「…僕はそうは思わないな」

「え…」

床を見つめていた顔をあげるといつの間にか花京院が目の前に立っていた

「ダーティーハートを、出してくれないか」

「う、うん…」

真剣な声音に押され、私も傍らに分身を出す

花京院はその存在にそっと手を触れ、そして抱きしめた

「花京院…!?」

「…正直に言ってしまうとね、僕も最初は不気味だ、と思ってしまったんだ」

私の分身の向こう側にある花京院の表情は窺い知れない

「でもね、それ以上に僕には寂しそうに見えたんだ」

「ダーティーハートが…?」

スタンド越しに強く抱きしめられる感覚が伝わってくる

「確かに歪かも知れない…でも、この子は確かに君の心だ、
この涙も、小さな子供が泣きじゃくっているように見える…
…君自身が君自身を嫌いになってしまったら、一体誰が君のことを愛すんだ」

「かきょ…」

肩に濡れたような感覚が伝わる、幽かな震えも

泣いている…?
どうして?
何故?
……私のために…?

何かを言わなければいけないと思ったのにどうしても言葉が出なくて

その代わりに、花京院が今そうしているように、
今度は私が彼の分身を抱きしめた

「…あたたかい」

言葉が唇を零れ落ちた

彼に似た、美しい細身の分身は
体温など無いはずなのに、
確かにあたたかかった

そのまま私達は随分長い間、…いや、本当はとても短かったかも知れないが
互いの分身越しに抱きしめあっていた

「私には、幼馴染が居るんだ」

沈黙を破ったのは私だった

「彼が傷ついたのを見て、彼を助けたいと祈ってその子は生まれた」

声が酷く震えている

「でも、彼にこんな醜い存在に気づかれたくなくて」

目が熱い

「私は彼から逃げてしまった」

喉が痛い

「私は、また彼に向き合えるのかな」

もう遅いかな

声を出すのが辛い

私達はようやく目を合わせる

「…向き合うのにもう遅いなんてことはないさ」

ついに頬に熱い雫が伝う

「…ありがとう、花京院」

無理やりに口角をあげて歪な笑顔を作る

「まだ、好きにはなれないけれど、…ようやく、自分と向き合うことが出来そう」

「…僕は大したことはしてないよ」

目の周りを赤く腫らした花京院も歪んだ笑顔を見せる

「…変な顔」

「君だって」

私達は同時に吹き出してお腹を抱えて笑った

久しぶりに、心の底から、涙を零すほど笑った





花京院夢じゃないです、飽くまでも
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