短編/小ネタ

□浮遊
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どこかふわふわとした感覚の中にいた

聞こえてくるのは読経のようだ

…誰かの葬式だろうか、式中に眠ってしまったとは大変失礼なことをしてしまった

目を開ければ見えるのは黒い服の群れ、
彼らが見ている遺影には…

「…あ」

そうだ、私が葬式に列席しているわけがない

だって私は……


もう、死んでいるのだから


この葬式は私のものだ

仏頂面をした生徒手帳用の写真が遺影に使われている

こんなことになるんだったら笑顔の写真を残しておけばよかった

誰が葬式を出してくれたんだろう

…ホリィさんかな、病み上がりだというのに申し訳ない

母娘共々こういう形でお世話になってしまうとは…

ふわふわとした感覚は宙に浮いていたかららしい、
道理でいつもより視点が高いわけだ

列席者は正直少ない、クラスメイトともあまり交流してこなかったし当然か

前の方の席に派手な頭が並んでいる

私は後ろの方にいたのでふわふわと前の方に歩いて行ってみる

…花京院、無事でよかった
ごめん、そんな辛そうな顔の原因は私だね
でも後悔はしてないよ

…アヴドゥル、傷だらけだ、でも無事なんですね
悔しげな表情、…いいんです、私は満足してます

…ジョセフ、よかった、助かったんですね
貴方までそんな辛そうな表情しないでください、
私まで辛くなってしまうじゃないですか

…ポルナレフ、DIOに手酷くやられたんだね、でも元気そうでよかった
今にも泣きそうじゃないか、情けないなぁ…

………承太郎、一番ボロボロだね、お疲れ様でした
影になってその表情はよく見えないけれど、
きっと貴方は皆の前では泣かないんでしょう

ホリィさんに、スージーQさんも、
色んな人達が私のことを見送ってくれている

他人事のように一連の様子を眺めているうちに式が終わって、献花もされた

いよいよ棺に蓋がされる

覗きこんだ私の表情は案外安らかに見え、
眠っているだけのようにも見えた

蓋にも釘が打たれ、いよいよ出棺だ

…ああ、承太郎、焼かれる時まで私の側にいてくれるのか

承太郎について式場から外に出て行くと、
式に参加してくれた彼らと共にイギーが外で待っていた

「…アギッ」

「…イギー」

そうか、動物って幽霊とかも見れるんだっけか

触れないんだろうな、と思いつつも手を伸ばす
案の定、すり抜けてしまった

触れるか触れないか、ぐらいの位置で撫でるように手を動かすと
イギーは目を細めて大人しくしていた

「…クーン」

「…?イギー?どうした?」

「…またあとで、ね」

最早彼にしか聞こえなくなってしまった声で言うと、霊柩車に乗り込んだ

火葬場に着くと棺は窯に入れられ、やがて煙が昇り始めた

「…さよなら」

いつまでも、承太郎の隣でその煙を見送っていた…

その後はまた式場に戻り、列席者達に食事が振る舞われた

…どうにもこういう場で出される食事は美味しそうに見えないんだよな

どうせ食べられはしないので
ふらふらと食事をしている人々の頭上を歩きまわる

「…俺、まだアイツが死んだなんて信じられねぇよ」

「ポルナレフ…」

そんな言葉が聞こえて足を止めた

…浮いているのだから足も何もないだろうが、
実際足を動かして移動しているのだからそう形容するのが正しいだろう

「今にもそこら辺からひょっこり出てきそうじゃねぇか…
それかまた攫われてどこかで俺達が助けに来るのを待ってるんじゃ…」

「ポルナレフ…!もうやめろ、…彼女はもう帰ってこないんだ」

「帰ってくるというか…ここにいるんだけどなー…」

あぐらをかいたまま逆さになって浮かぶ、…ちょっと楽しい

「そんな話はもうし尽くしただろう…
そりゃあ僕だって信じたくはない、だけど…紛れも無い事実なんだ…」

「………」

誰も彼も食が進んでいない

私は、案外愛されていたんだな…

なんだか私までしんみりとしてしまい、気分を変えようと外に出る

窓も扉も開いていなかったが、すり抜けられるので問題ない

「イギー」

「…!」

丸まって目を閉じていたが寝ていたわけではないらしい、
声をかけたら耳を動かして顔を上げた

「だーれも私のこと見えなくなっちゃったよ」

「…アギ」

どうしようかね、なんて言いながら先程のように撫でる仕草をした

「成仏したほうがいいんだろうけどやり方がわかんないや」

地べたに体育座りをして軽く口を尖らせた

あの闘いからまだいくらも経っていない、今はまだ冬だ

制服の上に薄手のパーカーと言う格好でも寒くないのは
私に気温を感じる身体が無いからなのだろう

身体を燃やしたあの煙を追っていけばよかったのだろうか
すっかり迷ってしまった、帰る場所もない

ジャリッ

小石を踏みしめる音がして、振り向いてみればそこには承太郎がいた

胸ポケットから取り出した煙草を加えて火を付ける

「…涼」

肩が跳ねる

名前を呼ばれ…たわけでは無いのだろう、独り言のようだ

空を見上げたその瞳は、何かを探しているように見えた

大事な何か、それを無くして心細くなってしまった子供
そんな風にも見える

「承太郎」

その視線の先に立とうとも、私に焦点が結ばれることはなく
名前を呼ぼうともその声が鼓膜を震わせることはない

…元々私が帰りたかった場所は、承太郎とホリィさんの傍だった

行く場所が見つかるまでは…貴方の傍を漂わせて……見守らせてほしい

何も、出来ないけれど

そうして、私の浮遊霊生活は始まった



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