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□やきもち
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最近、先輩が不機嫌だ。

練習のときは普通なのに二人のときや俺から話しかけると表情が暗くなる。避けられているわけではないから少し安心しているがやっぱり俺が何かしたのかと気になってしまう。今も二人で帰っている途中だが、会話がない。

(俺、何かしたっけか…?)
自分の行動を思い返してもしっくりくる答えが見つからない。

「あの、先輩…」
「……、何だよ」

一呼吸置いて先輩が答える。
(その間は何なんスか)

「えっと、その、」
「…?」

何を喋ろうとも考えていなかったので話題が出てこなかった。そこで俺は一番慣れている、おそらくここ最近の雰囲気の原因であろう人の名前を口にした。

「そういえば黒子っちが週末自主練付き合って欲しいって言ってたっス。良かったら先輩も一緒にどうスか?黒子っちのミスディレクションとか研究しといた方がいいっスよね。それに黒子っちは…」
「黄瀬ぇ…」

立ち止まった先輩の顔を見てこれはやばいと感じた。先輩が泣きそうに見えた。

「お前、いっつも黒子の話するよな…。別にそれはいいんだけど、よ。俺の…、俺も…。……ちっ、何でもない」

そう言って歩きだす先輩の腕を俺は反射的に掴んだ。

「先輩…、もしかしてやきもち…」

先輩の顔がみるみる赤くなっていく。

「なっ、誰がやきもちなんか…」
「先輩」
「…だったら、だったら何だよ!みっともねーだろ、嫉妬とか…。は、離せ!」

俺の手から離れようとする腕をさらに力を入れて握った。

「先輩が…、やきもち…。俺超嬉しいっス!」
「はああ?」

予想外の答えに若干動揺しながら深呼吸をした。初夏の風が気持ちいい。

「大丈夫っスよ、先輩。確かに黒子っちのことは好きっスけどそれは尊敬とかの意味だし、それに笠松先輩のことは愛してますから」
「お前っ!こんなとこで!」
「耳に囁いた方がいいっスか?」
「そういうことじゃねーよ!」

先輩の拳が腹の中心をえぐる。

「何するんスか!」
「恥ずかしいこと言うからだ」
「でも事実っスよ」
「…っ」

先輩の歩くスピードが早くなる。

「あっ、待って!俺も一緒に帰るっスよ!」

先輩に追いついて手を握る。

「おい黄瀬」
「いいじゃないスか。仲直りのしるしってことで」
「はぁ…、勝手にしろ」
「はーい。勝手にするっス」

改めて手を握ると笠松先輩も小さく握りかえしてきた。
緩い坂に影法師が2つ寄り添うように伸びている。


おわり



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