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□伝える手段
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タソガレドキ忍軍、諸泉尊奈門は悩んでいた。
組頭である雑渡昆奈門と晴れて恋人同士になれたのだが、自分から好きと伝えたことがないのだ。
理由は単純で、面と向かっていうのが恥ずかしいからである。
雑渡は気にしていないような素振りを見せているが、恋人に好意の言葉を伝えられるのはやはり嬉しいものだろう。

「組頭はいつも私に言ってくださるのに…。どうしたら伝えられるだろうか…」

そこで尊奈門は、「言いたいことがあるなら文書で提出しろ」という雑渡の言葉を思い出す。
幼い頃から雑渡の世話をしていた尊奈門は、学ぶべきことを十分に学べていなかったせいか言語力と整理能力が乏しく、考えをまとめて声に出すとなると上手く伝えられない。文書では頭の中を整理しながら書くことが出来るので、雑渡はこの性格を理解した上で言っているのだった。

「…よし!」

妙案を思いつき、さっそく筆と紙を用意する。数分、どういう文章にするか迷ったが率直な気持ちを書くことにした。さらさらと筆を走らせ乾くのを待って丁寧に折りたたみ、宛名に『文書』と記した。


「組頭、少しよろしいですか?」

尊奈門は雑渡の部屋へ行き、襖越しに声をかけたが返事がなかったので、静かに襖を開けた。中は文机があるだけで、雑渡はいなかった。

「また、忍術学園だろうか…」

雑渡は忍術学園の保健委員会、特に6年生の善法寺伊作と1年生の鶴町伏木蔵に懐かれているようでよく無断で出掛けていく。尊奈門はそれが気掛かりでしょうがなかった。浮気を疑いたくはないが、そう思われても仕方がないくらい忍術学園に行く頻度が高い。

「私では不満なのだろうか…」

好きということも伝えられない恋人に飽きてしまったのだろうか、という考えが頭をよぎったが自己嫌悪に陥る前に思考を停止した。
そして文机に文書を置き、自室へ戻った。


「尊奈門」

夕刻、尊奈門は雑渡に呼び止められた。

「組頭。帰られてたんですね。」
「ああ。それより、これのことだけど…」

雑渡は昼間尊奈門が雑渡の文机に置いた文書を取り出し、ひらひらと降った。

「これはお前からのものだよね?」
「え?あっ…、はい」

質問の意味がしばらく理解できなかったがそういえば名前を書いていなかった、と呟く。

「良かった…。お前以外からだったらどうしようかと思ったよ」

雑渡は文書の内容を思い浮かべた。忍術学園から帰ってくると部屋の文机に文書が置いてあった。きっと尊奈門のものだろうと察しがついたが、書かれている内容はとても文書とは思えなかった。
そこにはたった4文字。
『好きです』というストレートな告白の意が表れていた。

「これでは恋文じゃないか」
「うあっ!?えっと…、そういうことになるんですかね…?」

尊奈門としてはそんなつもりは全くなく、ただ自分の気持ちをいつもの手段で伝えた結果、恋文になってしまったようだ。
顔を真っ赤にしてしどろもどろしている尊奈門の額に雑渡は唇を押し付けた。

「く、組頭!?」
「なんか可愛かったから、つい」
「うう〜」
「それとね尊奈門。私は別に浮気していないよ」
「へっ!?そんなこと思ってないですよ!」

ずっと引っかかっていたもやもやした気持ちを言い当てられとっさに答える。

「そう?私が忍術学園に行くとき、すごく切ないような顔するじゃない」
「!!」
「私が気付いていないとでも思っているの?」
「…っ気付いているなら控えてくださいよ!組頭が伊作くんや伏木蔵くんと会うの楽しみにしてるのは分かっていますが、やっぱり…、妬いてしまいます」
「ごめんごめん、でもね尊奈門。私にはお前だけだよ。お前も分かっているだろう?」

優しく微笑む雑渡は尊奈門の腕を引き、小さい身体を抱き締めた。

「まさかこんな可愛いことしてくるとは思わなかったよ。…でもせっかくだからちゃんと声に出して言ってくれ」
「………組頭。………好き、です」
「うん。私も好きだよ」

初めて直接伝えることができた尊奈門は耳まで真っ赤に染めた。今夜はより近い距離で触れ合えそうだ、と雑渡は抱きしめる力を強めた。


「ところで組頭…。いつまでこの状態なんですか?」
「ん〜、なんだか離れたくなくなったなぁ…。もうこのまま私の部屋行っちゃう?」
「かっ、勘弁してください!」


おわり



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