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□それを治すには
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「なぁ、伊作。ちょっと俺のこと看てくれないか…」

伊作が保健室で包帯を巻いていると、同室の留三郎がやってきた。なんだか疲れているようで顔色が悪い。血の気が盛んな方なのに今は覇気がなく弱々しく見える。

「どうしたの留三郎!とりあえず横になって!」
「あ!いい、いいんだここで!」

留三郎を寝かせようと手を引こうとしたら、スッと避けられてしまった。不自然な動きに伊作は首を傾げ、何か避けられるようなことがあっただろうかと思案する。

「じゃあ、熱だけでも。…って言っても昨日僕が体温計を壊しちゃったから手で計るしかないんだけどっ」

距離を一気に詰めて留三郎の額に自分の額を合わせる。びっくりしてるらしい留三郎の手は中途半端なところで固まっている。

「熱はないみたいだよ。それより何で固まってるの?顔赤いし」
「うっうわあああああああああ」
「うわっ!ぐっ…」

耳の近くで喋りかけるといきなり突き飛ばされて、保健室の壁に思い切り身体を打ちつけた。

「いってて…」
「わ、悪い伊作!わざとじゃないんだ!あの、その…びっくりして…。本当すまん!」
「もういいって…」

涙目になっている留三郎を宥める。少しすると落ち着いたのか壁に寄りかかりずるずると姿勢を崩した。

「留三郎…、何か今日変だよ…?」

様子がいつもと違うという意味で問いかければ目を見開き傷ついたような表情になる。

「そうか…。やっぱりおかしいんだな…。俺さ、最近お前のこと見てると変になるんだよ。身体中が熱くなって、お前の視線を自分に向けたくなる…。他の奴らと話してるときはすごくもやもやするし…。よく分かんなくてずっと悩んでるんだ」

留三郎はぽつりぽつりと自分の状況を口から零す。伊作が黙って聴いていると切なさを浮かべ真っ直ぐ見つめてきた。そして自分の胸の左下を掴んでこう言った。

「ここが、ギュッって締め付けられるんだ」

その言葉で何かを確信したように伊作は笑い、留三郎の身体を思い切り抱きしめた。

「なっ!?伊作!?」
「留三郎。その症状治したい?」
「えっ?…出来るなら治したい。なんかずっと苦しいし…」
「じゃあ、目を瞑って」
「目?ああ…」

言われた通り目を瞑った留三郎の唇に伊作は自分の唇を合わせた。

「ふっ…ん!?え!?今、何した?」
「知りたいかい?」
「伊作…!?んうっ…」

そしてもう一度奪う。今度は目を開けたままの留三郎の身体がわなわなと震えた。唇を離すと顔を真っ赤に染めた留三郎が伊作を見つめている。

「これで治るはずだよ。ははっ、留三郎の心臓バクバクいってる」
「何だこれ今何が起こったんだ伊作の唇が俺の唇とくっついてそれはつまりえっと…」
「留三郎の病気を治す治療をしたまでさ。それにね、僕はずっと前から同じ病気に掛かっていたんだ。今日やっと治りそうだよ」
「伊作…?」

未だに状況を掴めていない留三郎に視線を合わてから顔を耳元に持っていく。そして甘く、熱をこめて囁いた。

「病名、恋の病」


おわり




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