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□ハッピーハッピーポッキーデイ
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11月11日。
山口にはある計画があった。
その計画は放課後、もっといえば部活が終わった後に実行する時が来る。
教室内はバレンタインデー程ではないにしろ、製菓業界の思惑に乗っかる女子たちが色んな種類の"それ"を持ち寄ってみんなで食べていた。
かく言う山口もちゃっかり準備している。
部活の時間を今か今かと待ちわびて1日中ソワソワしていた。


そして、その時がやってきた。

「あー…、今日も疲れたー」
「腹減ったね、坂の下まだ開いてるかなぁ」
「今日は奢らねぇぞ!」

コートいっぱい走り回った部員たちの熱が次第に冷めてゆき、着替えをしたり寝ころんだり、それこそ部活で空かした腹を満たすための相談を始める。
ここで山口は計画を実行するべく、がやがやとうるさい部室に響くよう声を挙げた。

「あ、あの!ポッキー食べませんか!?」

それまであちこちに向いていた視線が一斉に山口に集まった。

「おー、いいもん持ってんなぁ」
「俺たちが貰っていいの?」
「はい、昨日嶋田マートさんからたくさん頂いたので」

様々な種類の小分けにされた袋を一つずつ開ける。
そろそろ田中あたりが期待している事を言い出すのではないかと、じっと見つめてみた。

「ポッキーって言ったら、やっぱりアレですよねノヤっさん…」
「そうだな龍…」
「「潔子さんと☆ドキドキポッキーゲーム!!!!!」」
「清水もう帰ったけどな」

澤村の言葉に田中と西谷はがっくりとうなだれた。

「じゃあ、仕方ないっすね。このメンバーでやりますか」
「そうだな、ただ食べるだけってのも面白くないし」
「やるべやるべ!」

澤村と菅原がニヤニヤとした笑みを浮かべる。
山口は待ってましたとばかりに目を輝かせた。
(これならツッキーとキス出来るかもしれない…)
恋人同士であるにも関わらず、月島は山口に触れる回数が少ない。
キスおろか手をつなぐことすらまだ出来ていない。山口からそれとなく触れてみようとするものの全て失敗に終わっていた。しかし、今日のイベントなら、この雰囲気をうまく作り出せたなら多少強引であってもキスする事が可能であると判断した。

期待を込めた目で月島を見ると、思った以上に冷たい視線を山口に向けていた。

「あっ…、ツッキー…」

その瞬間、恥ずかしくなった。
月島は盛り上がる部員をよそに着替えを済ませ、ヘッドホンを肩にかけた。
そして山口をじろりと睨み出口に向かった。

「何だよ、帰るのか?」

気付いた日向が声をかけると振り向いて言った。

「甘いもの苦手ですので、僕は結構です」
「えっ、お前好物ショートケーキじゃ…」
「それでは」

バタンと扉が閉まる音が身体中に響いて、ハッとした。

「あ、えっと、俺も帰ります…。お、お疲れさまでした!」
「お、おう…」
「大丈夫か、山口…。なんか泣きそうな顔してたぞ」

急いで帰り支度を済ませてツッキーの後を追う。
幸い学校を出てすぐの通りで追いついた。

「ツッキー!ごめん、あの…」
「何が?」
「………」
「嶋田マートさんから貰ったなんてあんなに嬉しそうに喋って、これみよがしにポッキー広げて、何がしたいわけ?」

ツッキーとキスがしたいと言いたかったが、そんな勇気はなかった。それに、山口が隣に並んだとたん歩くスピードを合わせてくれただけでも嬉しくてなんだか満たされた気分になった。

「ツッキー、本当ごめん」
「もういい。それよりポッキーは?」
「全部置いてきたけど…。あっ、食べたかった?」
「いらないって言ったでしょ。……ん」

月島が鞄の中から赤い箱を取り出して山口の目の前に差し出した。

「え、ポッキーだ…。ツッキーの?」
「違う。クラスの女子に押し付けられたの。山口、処理して」
「処理って…」
「いいからさっさと食べて。もちろん全部ね」
「わ、わかった!」

言われるがままに箱を開け、ポッキーを取り出し一本ずつ口に含みポリポリと食べ進める。

「や、やっぱりツッキーも食べない?」
「いらない」
「ごめん…」

途中そんなやりとりをしながらも、ポッキーは遂に最後の一本となった。
すでに甘さでいっぱいの口の中に押し込むように含む。
その瞬間。

「んうっ!?」

短くなったポッキーに突然月島が噛みついた。
山口の唇に月島の唇があたっている。
そのまま舌が侵入してきて、次第に水温が聞こえる程深く貪られた。
ひとしきり山口を堪能した月島は唇を離した。

「ツッキー、何…したの…」

何が起こったのか分からないというような顔をしている山口に意地悪い笑みを浮かべた月島が言う。

「何って、僕とこういうことしたかったんでしょ?」

山口の顔がみるみるうちに赤くなる。月島にはお見通しだったのだ。

「回りくどいことしないで、素直にいいなよ。キスがしたいって」
「うっ…。ツッキーとキスがしたい、です」
「はいはい」

月島は一回溜め息をつくと恥ずかしさで下を向いている山口の顎を持ち上げた。



おわり



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