uta☆pri

□POISON KISS#4
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「カミュ、さっきから何を怒っているのですか?」
二人きりの部屋の中、セシルはカミュの顔を不思議そうに覗き込んだ。
「うるさい、傍に寄るな!」
「何でいけないのです?」
「俺が寄るなと言っているのだ、自分のテリトリーで大人しくしていろ!」
カミュが苛々と声を荒げると、セシルは溜息をついて自分のベッドの方に戻っていった。
(いわれのないことで叱責されているのだ、愛島が疑問を抱くのも仕方ない…けれど、この感覚を自分自身が持て余しているというのに、何と聞かれても、答えられる…はずがない!)

いつの頃からだろう。カミュは自分に屈託なく懐いてくるセシルに対して、胸がキュッとしたり、温かくなったりするようになった。
課題をクリアしたとき、初めてソロで仕事がきたとき、出せなかったキーが出せるようになったとき――そのたびセシルは太陽のような笑顔で「カミュ、ありがとう!」「カミュのおかげです!」などと言って飛びついてくる。
最初はただ鬱陶しかったし、仕方なく引き受けた先輩としての仕事をただこなしているつもりでいたのに、いつの頃からかカミュは、そういうセシルの喜ぶ顔見たさに自分は指導をしているのかもしれない、と感じるようになった。自分を慕う気持ちを嬉しく思うようになっていた。
(何故だ、何故そんなことを思わなくてはいけないのだ、俺様ともあろう男が…)
デスクに向かい頭をガシガシと掻く。
(いや、そうではない。自分の気持ちが何かなど、もうわかっている。わかっているからこそ、封じ込めなければいけないのではないのか…)
そんなことをグルグルと考えていると、ふと背後が静かになったことに気付く。そっと振り返ると、セシルはベッドに座ったまま、上半身だけ横に倒した状態で眠っていた。
「あ…」
思わずそちらへ近づく。すると、目尻にうっすらと涙が溜まっているのを見つけた。カミュの胸がドクン、と脈打つ。
俺が、泣かせた…?
すると、セシルが小さく寝言をこぼした。
「ん…カミュ…優しく…してくだ…さい…」
ズキン。今度は胸が強く痛む。
「愛…いや、セシル…すまない…」
カミュはセシルの前に跪くと、手の甲でそっとセシルの頬にふれた。
と、今度は幸せそうな寝顔に変わる。
(本当にこいつは…それ以上愛しい仕草などされたら俺は…)
カミュがもっとふれたい衝動に駆られたそのときだった。
…ツーッ…
セシルの頬に目尻の涙が伝う。
気付いたら、カミュはその涙を唇で受け止めていた。
塩辛いはずのそれが何故だかひどく甘く感じる。
(やはり…俺はこいつのことを…)
気付いてしまったらもう歯止めが効かない。そのまま、唇で目尻をチュッと吸い上げ、柔らかな黒髪を撫でる。
「う…ん」
そこでセシルが身じろぐ。そしてうっすら目を開けた。
「あ…」
咄嗟にカミュはどう言っていいのかわからず、固まってしまう。
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