銀魂 長編
□第十八話
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昔 多くの人に暴力を振るわれたこと。今はそのうちの1人である姉が近くにいること。彼女から、真選組から孤立するように指示されたこと。
全てを話すと、沈黙が2人を包んだ。
険しい顔のままどこかを見つめる銀時。彼の反応を、瑠璃はただ待っていた。
「──話は分かった」
銀時がそう言ったのは、瑠璃が最後に声を発してからしばらく経った頃だ。
「今からでも、あいつらに事実を話してみな。まだ間に合うんじゃないか?」
「間に合う……」
銀時の言葉は瑠璃の心に突き刺さった。それは、ここ最近ずっと自分に問いかけていたものと同じだった。
何故言わなかったのか。こんな状況になったんだから、言えばよかった。助けてほしいと頼めばよかった。頼ればよかった。
孤独で息苦しい毎日なんかいらない、どうすれば捨てることができるのか。
打ち明けるのは、今からでも遅くないんじゃないか?
何もかも隠して自問自答していた時は答えが出なかったのに、今は簡単に言葉が口の内側を突く。
「……もう、だめです。きっと誰も、私のこと、信じないです」
もしこの体に、散々痛みを刻み込まれた証があったなら。きっと彼らは理解してくれただろう。
もし以前から故郷での日々を語っていたなら。今の暮らしは壊れず、こんなことにはなっていなかっただろう。
認めるしかない。現状は、積み重ねた嘘や隠し事の代償だ。
「でも……」
村にいた頃は聞き分けがよかった。一家団らんも、友達作りも、皆に受け入れてもらうことも、誰かと深い関係を持つということを諦め続けた。
傷つかずに済むのなら、このまま孤独であり続けるのも悪くない。生きるために仕方ないと、そう思っていた。
しかし、今は違う。入隊するときに、土方に誓った言葉がある。
『土方様、私、きっと変わります』
その言葉だけは裏切れない。真選組との関わりだって諦めたくない。
瑠璃は、真選組と出会ったおかげで諦めの悪い性格に変わってしまったようだ。
「私は……真選組を、失いたくない。もう一度、信じてもらうために……頑張りたい」
瑠璃は俯いた顔を上げ、銀時の方を見た。髪の隙間から覗く目が、銀時をしっかりと見据える。
坂田さん、と無感情な声が言った。
「私は、本当に間に合うんでしょうか? 」
無感情な声、能面のような無表情。それなのに、悲しい顔で声を不安に揺らしていたように思えたのは何故だろう?
銀時はふっと口元を緩め、大きな手を瑠璃の肩に乗せた。
「そればっかりはやってみなきゃ分からねぇよ。頑張れ、応援してるぜ」
瑠璃は力強く頷いた。頑張ります、と呟いて、彼女は立ち上がる。
「あ、そうだ、その前に……」
銀時は何かを取りだし、瑠璃の手に握らせた。住所と簡単な地図だ。
宮本沙弥、という名前が書かれていた。その文字を見た瞬間、瑠璃は少しだけ目を見張った。
「こいつとも仲直りしてやれ。なるべく早くな」
失いたくないものは、真選組だけではない。
あの日言えなかった言葉を伝えなければ、沙弥との関係は修復できないだろう。
瑠璃は紙を見つめ、指先に力を込めた。銀時にありがとうございますと一言言って、踵を上げる。
「あ……」
瑠璃は急に立ち止まり、銀時に振り返った。
「あの……本当に、ありがとうございます。今度、お礼します」
それだけ伝え、走り去っていった。遠ざかる背中を見つめながら、銀時は呟いた。
「村ぐるみの虐待、刀工の娘、武州……?」
眉根を寄せ、目を細める。その顔は、昔聞いた何かを思い出しているようだった。