銀魂 長編
□第二十一話
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昼下がり、瑠璃はまた子に連れられて艦内を歩いていた。
すれ違う人々は皆、頭を下げて挨拶をする。頭が上がると、一様に瑠璃をじっとり見つめた。
1時間ほど艦内を案内してもらったあと、また子の部屋に上がらせてもらうことになった。そこでやっと、瑠璃はまた子に疑問を投げ掛ける。
「私……、変、なのかな? 着物、似合ってない、とか……」
「いや、そんなことは……。何でそう思うんスか? 」
瑠璃は首を傾けた。無感情な顔から、眉をきゅっと寄せて怪訝そうな顔をしてみせる。
「……すれ違う人、みんな、不思議そう……、だったから。こんな感じ」
無理矢理作った表情であったからか、眉はすぐに離れ、いつも通りの無表情が一瞬で現れる。
また子はじっと、瑠璃の顔を見つめた。しばし見つめたあと、溜め息をついて首を左右に振った。
「たぶん、それしかないような……」
一言二言ぶつぶつと呟いてから、また子は瑠璃を指差した。瑠璃は一度背後を見たが、これといって気にかけるべきものは何もない。
やはり指差されているのは自分の顔だ。一体なんだろうと どきどきしながら、瑠璃は待った。
「あの女と似すぎてるから、間違われたんじゃないッスか? 他の連中は『なんで今日は仲がいいんだろう』とか思ったんじゃないかなって」
もしその予想が的中しているなら、仲の悪さは相当なものと伺える。
また子の口ぶりや初対面のエピソードから何となく察することはできたが、少し気になった。
「お姉様とは、仲良くできませんか? 」
「できないっていうか……、する気がないというか……、うん、無理ッス」
また子は苦虫を噛み潰したような顔、さらに言えば噛み潰した苦虫を飲み込んでしまったかのような顔をした。
どうしても受け付けないものって世の中にあるッスよねと語ったあとで、また子は少しだけ口元を緩めた。
「あいつは無理ッスけど、瑠璃は別ッス。話してるうちに、晋助様が好きになったのも納得できたし」
その言葉で瑠璃はハッとした。なんだかんだ聞けていない高杉の好意の理由は、また子に聞けば解決するかもしれない。
非常に申し訳なく思いながら、瑠璃はまた子が語る高杉の魅力についての話を遮った。
「あのっ!……高杉、って……、どうして、私のこと……」
好きなの?という言葉は言えなかった。それを言うのはなんだか恥ずかしく、ためらってしまった。
もじもじする瑠璃を見てまた子は察し、ニヤニヤという表現がしっくりくる笑みを浮かべた。
「それは、晋助様に、直接聞くべきじゃないッスか〜? 」
瑠璃を指差し、また子は少し強調しながら問いかけた。瑠璃は少し首を傾け、うーんと唸る。
「……また子さんなら、聞ける?」
「……いや、無理ッスね!! 」
また子は真っ赤になった頬を押さえ、ぶんぶんと黄色い頭を揺らした。
「絶対無理っス! あの晋助様に愛されるっていう仮定も、あの晋助様に好きな理由を言われるのも、あの晋助様に見つめられるのも!! 」
きゃああ、と髪の色のような歓声を上げるまた子は別世界に行っているようで、瑠璃は置いてきぼりだ。
彼女がどれほど高杉を好きなのかはよく分かった。きっと、また子と瑠璃は似た者同士だ。
その人の一挙一動全てに魅力を感じるくらい、心の底から尊敬している人がいる。
瑠璃は先程また子が言った言葉を、自分がこの世でもっとも尊敬する人に置き換えて考えてみた。
彼女がどんな気持ちなのか分かるかもしれないという単純な興味だ。
「んー……」
絶対にあり得ないと分かっているが、まず土方が瑠璃のことを愛しているとしよう。
だが、いまいち自分は「好き」が分からず、何を理由に「好き」と思ったのかを尋ねる。
土方は見つめながら、優しい声音で……
「……う、うわぁっ……」
「え、どうしたんスか!? 無表情なのに、顔はめちゃくちゃ赤いッスよ!? 怖っ、なんか怖っ!!! 」
瑠璃は両の頬を、手の平でバチンッと強く叩いた。
ヒリヒリして痛いが、破れそうなほど鼓動する心臓への安定剤くらいにはなった。
「だ、大丈夫です……」
「いや、今度は腫れたほっぺたが気になるんスけど……」
また子に再び大丈夫と念を押してから、瑠璃は頬を擦った。「おこがましい想像をしてしまった」と反省しながら。