REBORN! 長編

□第4話
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学校から徒歩10分ほどのところに、ルリが暮らす家があった。なかなか大きな家であり、初めて訪問した者はだいたい「こんな家に住んでみたい」と言う。


何度か来たことがある京子だが、今でも入るのを躊躇してしまうような外見だった。しかし、家主であるルリは堂々と玄関のドアを開ける。


「ただいまー」


そう言って開かれたドアの向こうの内装は相変わらず綺麗だった。ルリは靴箱に靴を入れ、京子にスリッパを出した。


「さっ、上がってください。リビングで待っててくださいね」


そういうとルリは階段に向かい、ぱたぱたと走りながらかけ上がった。少しすると微かにドアの開閉音が聞こえ、それを合図に京子はリビングに向かった。


慎重にドアを開けて中を覗くと、誰もいなかった。妙に安心して、京子はソファーの方に歩いていく。


ふかふかしたソファーは三人ほど腰かけられそうなサイズが二つ、向かい合って置かれていた。その間に置かれた机にはお菓子を入れたバスケットがある。


奥には人が2〜3人並べそうなキッチンがあり、西洋風の食器やティーカップが整頓して納められた棚が目についた。


あまり主張しすぎてはいないが高級感があるこの部屋を見回していると、雰囲気が結構好きであることを実感した。


妙に安心するような、落ち着いた空間だった。京子はついクスリと笑ってしまった。


と、その時ドアが開いた。ルリが帰ってきたのだと確信を持ってドアを見たが、そこにいたのは別人だった。


「あ…えと、お邪魔してます」


向こうもびっくりしていて、「おう…」と小さな声と頷きを返すだけだった。お互い黙り合い、彼女の方はキッチンに向かった。


その後ろ姿は、ルリと瓜二つ、というよりルリそのものだった。


見た目はルリにそっくりだった。しかし、よく見てみると違いははっきりしている。


まず、声が少し違う。例えでいうならルリがソプラノとすれば、彼女の声は少し低いメゾ・ソプラノだ。


また、服装の方もルリとは正反対だった。


ルリの私服は今までに何度か見たことがあるが、どれもザ・女の子といったような可愛い服だったのだ。白いワンピースを着ていた時なんかは、『天使』と表現する者がいたほど似合っていた。


対して、今キッチンでカップを取り出している彼女はボーイッシュといえた。ジーンズに英字がプリントされた黒のTシャツを着ている。


おしゃれに興味なんてない、と背中が語っているようにも見えた。


「この人…ルリちゃんのお姉さんかな?」


まだ成人はしていないように見えるので、母である可能性は0に近い。しかし、姉妹がいると聞いたこともない。


お手伝いさんか何かである線も考えたが、それにしては若すぎるし似すぎているし、第一客人に「おう…」なんて言わないはずだ。


謎がどんどん深まってきて、京子は不思議そうに彼女の背中を見つめ続けた。


彼女はずっと黙って何か飲み物を作っているようだった。しばらくすると香ばしい匂いが漂ってきて、それが珈琲であることを知った。


いい匂い、リボーン君がいつも飲んでるのと似てる。心のなかで呟いた。


鼻孔をくすぐる珈琲の匂いで赤ん坊のことを思い出していると、彼女が急にこちらに振り向いた。思わず身を固め、姿勢を正す。


彼女は珈琲カップの取っ手に人差し指をかけたまま、困っているような顔で唇を開いた。


「あんたさ…珈琲と紅茶、どっちが好き?」


質問の内容に気が抜け、京子はホッとしたように肩を落とした。それから、微笑を浮かべて「紅茶が好きです」と答えた。


彼女は「へぇ…」と呟くと、一瞬だけ時計を見た。それからまた京子の方を見て、申し訳なさそうに片手で頭を掻いた。


「客に飲み物を出すのはマナーだが、俺は紅茶淹れるの苦手なんだ。ルリが帰ってきたら淹れてもらうから、もうちょっと待ってくれ」


すまん、といって彼女はカップを置いた。棚に手を伸ばし、カップを2つと茶葉の入った缶を出し、そのままキッチン台の上に置いた。


自分は珈琲の入ったカップを持ち、京子の座っているソファーの向かいのソファーに座った。
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