REBORN! 長編
□第8話
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教室に帰ってみると、先ほどより生徒が増えていた。その中に、珍しい姿を見つける。
遅刻ギリギリ、もしくは遅刻が当たり前の男子生徒。そして、ルリにとってボスに当たる彼が席に座っている。背中を見ただけでも分かる、彼は何かを探してる。
彼が探してるのはきっと自分たちだと分かり、一瞬身を強張らせるが、ルリと彼の席は隣同士なのだ。嫌でも、その隣の席に近づかなくてはならない。
京子の方を見れば、同じように彼の背中を見つめていた。そして、不安そうな顔はルリに向けられる。
その表情を見て、ハッとした。怖じ気づいてどうする、自分たちは戦わなくてはならないんだと。
堂々としていなければ、事は上手く運ばない。ルリは下がった唇の端を指で持ち上げ、京子に目で笑いかけた。
京子の顔から、不安な気持ちが消えていく。にこっと笑い、京子は同じように唇を指で持ち上げた。
「また、休み時間にゆっくり話しましょう」
あとで、と言って二人は片手を上げる。
クラスメイトは小さな声でヒソヒソと何かを言いながら、このクラスの異物であるかのようにかつてのマドンナたちを見た。
教室の空気は変わった。しかし、まだ綱吉は気がついていない。
いっそ、驚かせるように後ろから肩を叩いて笑いかけるなど、こちらの緊張を一切悟らせない方法も考えた。
しかし、昨日の出来事はそんなことができるほど軽い問題ではない。ルリはゆっくり歩きながら、対応を考えた。
結局、狭い教室の入り口から自分の席に着くまでには、どんなにゆっくり歩いても30秒もかからなかった。
30秒でまともな考えが浮かんだり纏まったりするわけもなく、ルリは覚悟を決めた。
鞄を机の上に置くと、綱吉がこちらを見た。彼は、その大きな目を見張っていて、さらに大きくしていた。
「おはようございます」
ルリはにこりともせず、無愛想にそう言った。どんな態度を取ればいいのか、結局ベストな答えは見つからなかった。
「あ……うん、おはよう」
それは向こうも同じようで、彼もまた気まずそうに返事をする。こちらの目を見ないように、顔を背けられた。
お互い無言になり、空気が重く感じる。ルリは特に気にしていないことを装って、机に教科書等を入れていく。
時間割を確認して、一時間目が数学であることをぼんやり頭に詰め込んだ。
別に綱吉と話すことは何もないし、ルリはまた京子のそばへ行こうとした。
しかし、それは緊張した声によって叶わなくなった。
「待って、ルリちゃん」
その声に振り向くと、彼は緊張した面持ちでルリを見ていた。その表情を見ただけで、彼が今から言おうとしていることの予想がつく。
「何でしょうか?」
だが、分かっていてもルリはあえて問う。首を傾け、口をへの字にして、綱吉の言葉を待つのだ。
綱吉は周りを気にしながら、ぎこちない笑みを浮かべた。そして、少し上ずった声で答える。
「今日、さ……一緒にご飯食べない?最近ずっと離れてたけど、どうかな……?」
聞きたいこともあるし。と綱吉は続けた。
聞きたいことがあるから、わざわざ誘ったんでしょう。とルリは心のなかで呟いた。
そうでもなければ、綱吉たちが誘うことはありえない。以前ならともかく、今は絶対そうだ。
完全なものとなってしまった亀裂に彼は気づいていない。ルリが綱吉たちに距離を感じていることなど、想像すらしていないのだろうか?
だとしたら羨ましい頭だ。今だけ交換してほしい。
「残念ながら、ご一緒できません。ボスとして命令するなら、守護者の一人として聞き入れても構いませんが……そうじゃないんですものね?」
綱吉は一瞬怯んだ。だが、続けてこんなことを言った。
「じゃあ、ボスとして言うよ。話があるから来てほしい」
この瞬間、ルリは違和感を感じた。
ボスとして?普段から10代目就任を拒否している彼が、何故こんな言葉を言ったんだと。
ボンゴレ10代目という肩書きを使うことを、普段の綱吉であれば嫌がるはずだ。それなのに、何故?
疑問を膨らませ、黙りこくったルリは、しばらく綱吉を見つめていた。
しかしその沈黙は、教室の後ろの方から聞こえてきた女子生徒によって、まもなく破られた。