REBORN! 長編
□第9話
1ページ/7ページ
今朝だけで、たくさんの人間を敵に回した。教室で静かに過ごすのは、きっともう無理だ。
教室以外の校内であれば、雲雀が目を光らせてくれている。だから何も心配はいらなかった。
雲雀に咬み殺されることを恐れ、忌々しそうな視線を向けてくる以外には誰も何もしてこないからだ。
だが、教室に戻ればみんな豹変した。
わざとぶつかってきたり、聴こえるように悪口を言ったり、陰湿なことをする。
廊下でわざとぶつかってきたり、机を蹴って教科書や消しゴムを落としたり、その落ちたものをさらに蹴り飛ばすなど、ふざけたことを行ってくる。
それだけならまだいい。幼稚だと思うに留まる。
許せないのは、教科書や体操服を隠すこと。とても幼稚で悪質で、相手が同じ年数を生きているとは思いたくないくらい不快だった。
愚かすぎて、吐き気がする。
京子とともに家に帰る道中、ルリは疲れを隠せない顔をしていた。
「ルリちゃん、大丈夫?」
「大丈夫です。これくらいは予想の範疇なので」
そう、予想していた。彼らが何もしてこないはずはない、学校から追い出すために何か仕掛けるはずだと。
雲雀があのヘイトを制圧してくれたおかげで、想像よりは比較的楽だった。
しかし、これから毎日、彼女をどうにかするまであの生活が続くと思うと頭が痛い。
「私のこと、庇わなきゃこんなことにならなかったよね?ごめんね、ほんとに」
あの日、1人でミサに着いて行ったこと。それがこの悪夢の始まりだった。
踏み外した1歩はあまりに大きすぎた。崩れていく足場から必死に逃れ、無我夢中で走っているような気分だった。
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。遠ざけることができたかもしれないのに、ルリをどんどん核に近づけている。
1人で大丈夫だよ、だからもう私に任せて。ルリちゃんは気にせず向こうに行って、誰にも傷つけられない場所でいて。
何度もそう思った。だが、いつも声にはならなかった。
言っても困らせるだけだと知っているから。彼女は絶対に途中で目を離したりしないと分かっているから。
だから言えなかった。そして甘え続けていた。
「服や小物をお揃いにするだけが友達じゃありませんよ。辛い目にあっているなら、私も同じ状況になって気持ちを共有します」
ほら、この通り。彼女は優しい。絶対に友達を1人にはしないし、見捨てない。
京子は思う。自分はとても幸せだと。
こんなにも親切で、頼りすぎてしまうくらい頼もしい友達がいるのだから。
「また明日からも、頑張りましょうね」
いつの間にか、岐路に立っていた。真っ直ぐ行けばルリの家、右に行けば京子の家に続く道だ。
信号は赤だ。ルリはちらちら気にしながら、京子に微笑みかける。
まもなく、信号は青に変わった。じゃあまた、と言って片手を上げたルリは歩き出す。
遠ざかる背中をそのまま見送るのは簡単だ。だが、京子はそうしなかった。
「ルリちゃん!」
横断歩道の中間くらいまで足を進めていたルリ目掛けて走り、隣に並ぶ。びっくりした顔のルリと目があった。
「今日は、ルリちゃんのおうちの前まで一緒に行くよ。学校じゃ、あんまり話せなかったから」
いいよね?と京子が笑う。
すると、丸くなっていた目は細くなり、ルリは照れるように笑った。
ふふふ、と笑うルリは本当に嬉しそうだ。
彼女は強い。肉体も精神もよく鍛えられているから、学校で受けた嫌がらせは彼女にとってはかすり傷にもならない。
それを知っていても、京子の目にはっきりと映った。
「そのこと、気にしてくれてたんですか?話せなくて寂しかったので、嬉しいです」
寂しい。
どんなに強い人間でも弱らせてしまう感情を抱くルリの表情が、京子にははっきりと見えていた。
だめ、放っておけない。放っておけば、私はクラスの子と一緒になってしまう。
ルリちゃんの寂しさを見逃さない。強がらせない。
それが、助けてくれたことへの恩返しになると信じさせて。
京子は、迷いがない目でルリを見た。この熱い想いを伝えるかのように。
「今日は何を飲みますか?」
「レモンティーがいいな」
他愛ない会話をして、2人は点滅する青信号を背にした。