銀魂 長編
□序章
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ある夏の日のこと。
化け物と呼ばれる私は、今日も石を投げられていた。
「おい化け物!泣いてみろよ!!」
「やめろよ。こいつの声なんて聞きたくねぇだろ?」
大粒の石が額にぶつかり、ドロッとした物が溢れるのが分かった。
そっと手を持っていき、触れた。その手を目の前に持ってくると、手は赤くなっていた。
"血"だ。
切れたらしい額が痛い。
「おい、もう行こうぜ!」
「そうだな。こんな化け物と付き合ってられねぇよ!」
血が出たまま、道の真ん中で放置される。額からはまだ血が溢れている。
けど、そのすぐあとにはもう、血は止まっていた。
私は歩き出した。ここ最近、何も食べていないから、腹はぐぅっと鳴った。
何も食べない日があと何日か続けば、私は間違いなく死んでしまう。なんでもいいから、食べないと。
でも、どこへ行けばいいの?
ふらふらとよろめく体で歩き出す。行く宛などないけど、足が勝手にここではないどこかを探していたように思える。
道を歩き出した途端、通りすがりの男女が囁いた。
「見ろよ、歩いてるぜ?」
「あらほんと。人間様の道をあんな堂々と……」
蔑む目は見ていない。軽蔑の声は右から左に聞き流す。
それが、いつか決めた私を護るための方法だった。
私が一歩踏み出そうとしたとき、ザクッという音と一緒に鍬が爪先の少し先に刺さった。
見上げると、 ちっ、と舌打ちの音が聞こえた。その人は鍬を担ぐと、私を蹴り飛ばす。
地面に倒れ伏した。手をついて上半身を起こすと、周りはみんなクスクス笑っていた。
私は、こんなときどう言えばいいのか知ってる。
「ごめん、なさい……」
と、ただ謝ればいい。私が悪い、と認めればいい。
私はもうすぐ18になるけれど、この『ごめんなさい』の言葉は人生で一番多く使った言葉だと思う。そして、それはこれからも変わらない。
周りは大笑いをしていた。何がそんなにおかしいの?
私が転んだこと?私が謝ったこと?それとも、私が傷つかなかったから?
倒れそうになりながら走った。そのあとを追いかける者は1人もいなかった。