銀魂 長編

□第弐話
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一番隊の全ての隊士と山崎が玄関前に集合し、点呼を取り終わったら沖田が土方に伝える。


土方は彼らの前に立ち、局中法度全46条を読み上げて気を引き締める。それが決まりだ。


全て読み上げられてから、帰ってくるまでが見回り……そう瑠璃は教えられていた。


「よーし、それじゃあ行くぞ てめーら」


沖田がそう言って、隊士たちはみんな門に向かった。瑠璃もその一人で、山崎と共に歩く。


土方はそれを見送ってから屯所内に消え、自分の仕事に取りかかるというわけだ。


出発した隊士たちはそれぞれの場所に向かって別れ、全員バラバラになった。


山崎と瑠璃も、いつのまにか2人だけになった。2人は辺りを注意深く見る。


瑠璃は集中していた。もちろん、山崎だってそうだ。しかし、どうしても隣に瑠璃がいることを考えると意識がそちらに傾くこともあった。


ああ、可愛いなぁ……という言葉が山崎の心を埋め尽くす。


キョロキョロと周りを見回す様子は、どこか小動物を連想させる。無表情であるのが常な彼女が、たまに瞳を大きくして何かに驚いているのを見たときは、山崎にとって癒しの一時だ。


「山崎くん、今日は、……山崎くん?」


ふと、瑠璃が少し上にある山崎の顔を見上げた。目が合い、山崎は慌てて顔を反対に向けた。


何故目があったのか、何故見られていたのか。瑠璃は不思議そうに眉を寄せたが、特に触れずに話を続けた。


「この辺りに、攘夷浪士が集まりそうな場所はある?裏路地とか、廃墟とか……」


真面目に見回りをしている瑠璃に感心しつつ、山崎は頭の中で地図を広げた。


「この辺は多いかもね。なんたって、荒くれ者が多いから」


そう言って、山崎は目だけを動かして辺りを見回した。


ガラの悪そうな若者、昼間だというのに早くも酒に呑まれている者、大手を振って歩く天人。


いつ喧嘩が起きてもおかしくない状況がここには揃っている。


「あいつらは喧嘩の騒動に紛れて逃げるし……ここは結構多いかもしれない」


はあ、とため息をついて、山崎は肩をすくめた。瑠璃は頷いて、小さな声で「ありがとう」と呟いた。


瑠璃は「ありがとう」を言い慣れていない、だから、いつも言ったあとに戸惑っているように見えていた。


これでいいのかな、「ありがとう」って言うのは正しいのかな。そんな風に思っているのが、よく分かる。


瑠璃はまた周りに注意を向けた。もう山崎は視界に入っていない、だから頬が微かに赤いことなど見えていなかった。


あー、非番じゃなくなってよかった、大満足。といった様子で山崎は口元を緩めた。それは引き締めようとしても、どうしても締まらない。


いつも自信なさげに紡がれる「ありがとう」。その言葉を言うときに見られる表情が、可愛く見えて仕方ないから。


目を伏せ、小さな声で呟く。その後に一瞬だけ、無表情が崩れて違う表情が顔を出す。


ぎゅっ、と結ばれる口元。伏せられた目。揺れる髪に隠れる、少し膨らむ無意識の頬。


ああ、可愛い。もっといろんな表情が見てみたい。ただそれを願うだけで、口元の緩みがひどい。


そして瑠璃は、隣で口元をピクピクさせている山崎が視界の端に少しだけ見えていて、不思議そうに眉を寄せるのであった。


だいぶ時間が経った頃、ようやく二人は予定していた見回りコースを回り終えた。そこそこ疲れている二人だが、最後の仕事が残っている。


そう、土方からのお使いだ。


これから大江戸スーパーに行き、メモに書かれた品物を買うという仕事が残っている。


メモをポケットの中から取り出すと、瑠璃は疲れの滲み出る表情をした山崎の肩をとんとんと叩いた。


「山崎くん、お使い。この……"大江戸すーぱー"ってどこ?」


読めるのに、声にすると何かがおかしい。瑠璃のカタカナは何だか不思議なものである。


妙な訛りを聴いた山崎は、また口元をピクピクさせることになっていた。


すーぱー……!!


先ほどの発音を頭の中で繰り返しながら、笑いが吹き出しそうになる衝動を必死で抑える。


それと同時に、いとおしさで胸の奥が熱くなる山崎であった。
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