銀魂 長編
□第参話
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突然現れた白髪の男は腰に木刀を下げていた。瑠璃はそれをじっと見て、呟くような小さな声で言った。
「木刀に、白い髪……」
その2つの特徴からある人物を導き出す。以前、土方が言っていた男の特徴と一致している。
たしか、副長と仲が悪い人がそんな感じだったはず。名前までは覚えていないから確認できないけど、きっとそうだ。
そう思って瑠璃はまた彼の顔を見上げた。
じっと見つめていると、彼は真っ白な頭をポリポリ掻いた。
「ちょっと失礼」
男は目線を合わせるように膝を折った。真っ直ぐに向かってきた手が、目と前髪の隙間に入る。
思わず目を閉じたその時、視界が明るくなった。恐る恐る目を開けると、妨げるものがない状態で彼の顔が見れた。
「なかなかいい女じゃねぇか。姉ちゃん、その顔隠すのはもったいねぇぞ」
前髪越しであれば、人と話すことが苦ではない。だが、剥き出しの目をまじまじと見つめられるのは苦手だ。
瑠璃は視線をずらし、後ろに下がった。支えがなくなり、毛先が鼻に当たったところで前髪を両手で押さえつける。
「私は、これでいいんです」
照れているような反応を見せる瑠璃を面白がったのか、彼はにやにやと笑った。
「喪服集団んとこの人間にしちゃ、随分普通だな。お前ら、いいとこの嬢ちゃん誘拐したんじゃねぇか?」
実際どう?と言って彼は山崎の方を見た。山崎は片手をひらひら横に振る。
「してませんよ。警察が犯罪起こしてどうするんですか」
「んだよ、面白くねぇなあ」
彼は折っていた膝を立て、改めて瑠璃を見下ろした。
「んー……しかしあれだよなあ、お前らのところにはもったいねぇよな。姉ちゃん、うち来ない?」
「何言ってるんですか、旦那!そっちにはチャイナさんがいるんですから、狙わないでくださいよ!」
本気っぽく怒った山崎をからかうように笑い、銀時はまた怒らせるようなことを言う。
それに山崎が言葉を返すことが続く。瑠璃は置いてけぼりだ。
ちょっといい加減で、捉えどころがない人だと思った。真面目な土方とは相容れないところが容易に想像でき、瑠璃は静かに息をついた。
しばらく山崎と話していた男だったが、不意に瑠璃に目をやった。
「つーかよ、ジミー。この姉ちゃんって結局なんなんだよ。制服着てるし、隊士なんだろうけど」
そう言われて、お互い自己紹介をしていないことを今更思い出した。
「1番隊副隊長、如月瑠璃です。よろしく、お願いいたします」
「つーことは、あの沖田くんの部下だな。……ん?あんた、前からいたか??副隊長で女なら目立つはずだが、見たことねぇぞ」
深く聞かれることはないと思っていたので、言葉に困ってしまう。それを見た山崎は、代わりに説明してくれた。
「もともと副隊長は別にいたんですけど、色々あって……。その時に瑠璃ちゃんが入隊してきて、腕はいいし沖田隊長と相性が良さそうだから『副隊長にしてみたらどうだ』ってなったんです」
「……皆さんは、過大評価しすぎです。私なんて、全然……」
まだ入って4ヶ月だし、と心の中で呟き、瑠璃はその話を終わらせた。
「それより、あなたの名前を」
まだ何か聞かれそうな雰囲気を察知して、瑠璃は別の話題へと移った。
彼は何か考えるように斜めを向いたあと、おもむろに何かを探し始めた。
彼は財布を取り出した。その中に入っていた小さな紙、それを瑠璃に手渡す。
「万事屋……? 坂田、銀時さん……??」
それは名刺だった。住所と店の名前、経営者の名前が書いてあった。
中央に書かれた"坂田銀時"という名前に目を留める。それから、目の前にいる男に視線を移した。
「あなたは、坂田さん、というのですか?」
「やめろやめろ、そんな堅苦しいの。銀ちゃんとか銀さんでいい」
彼は財布をしまいながら瑠璃を一瞥した。顎で名刺を指し、銀時は万事屋について説明し始めた。
「その通り、俺は坂田銀時だ。そこに書いてある通り、頼まれたら何でもやる商売やってんだ」
そういうと、彼はまたにやっと笑って自分を親指で指した。
「困ったときはいつでもここに来な、この銀さんが助けてやるよ」