銀魂 長編
□第五話
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中まで入ることのできた一行は、やけに騒がしい部屋を見つけた。慎重に行こう、と言う近藤の言葉を無視し、神楽が駆け出した。
「きゃっほー!一番乗りアルー!」
「ちょ、チャイナ娘ぇぇ!?言ってるそばから!!」
その近藤の隣に来て、沖田は平然とした顔で呟く。
「近藤さん、あの馬鹿はほっといて大丈夫ですよ」
銀時たちも焦っておらず、むしろ目に見えて焦っていたのは近藤だけだ。
瑠璃は先ほど神楽が戦うところを見ていたので、神楽の実力は分かっている。大丈夫だろう、と黙って見守った。
神楽は敵がいるであろう部屋の障子を開いた。その直後、神楽に何かがぶつかり、べちゃっという新鮮味に欠ける音がした。
「なんだ?」
沖田が呟くと同時に、瑠璃が神楽の元へ駆け出した。距離がそんなに離れていなかったことと、瑠璃の足が速かったこともあり、すぐに隣に追い付いた。
「大丈夫ですか?」
神楽の顔を覗き込んだ瑠璃は、神楽が表現のしようがない妙な表情をしていることに気がついた。
その表情は何か、考えても分からないので首を傾げる。
「……? なんか、変な匂い……」
近い場所から、鼻を摘まみたくなるほど変な匂いがした。鼻をすんすんと鳴らし、発信源を辿る。
発信源を特定することができた。そして、同時に目を丸くする。
「あ……なるほど」
頭には茶碗、そして赤いチャイナ服には、飛んできたであろう生卵と白米がべったりと付着している。
卵は少し古かったらしく、黄身が崩れている。そして、これが匂いの正体だった。腐った卵というのは、なかなか鼻に良くない。
瑠璃は知識が増えたことに感激すると同時に、神楽に同情した。
せめて米粒だけでも除けてあげようと、瑠璃は一粒一粒丁寧に手で取った。
そこに沖田もやって来て、神楽を見るなり一言言った。
「チャイナ、股から卵垂れてるぜぃ。排卵日か?」
言われた本人は勿論、聞いていた瑠璃まで沖田に鋭い目を向けた。
「沖田、あなたはその、無神経なところを」
どうにかしないとだめ。言い終わる前に、神楽が行動に出た。顔面を掴み、手加減なしで沖田を前方に投げ飛ばしたのだ。
とてつもない怪力を誇る神楽に投げられた沖田の体は、槍投げの槍のように真っ直ぐに、ぶれずに飛んだ。
事の一部始終を見ていた土方も銀時・近藤とともにやって来て、冷静に事態の善悪を判断した。
「今のは総悟が悪いな」
神楽も瑠璃も、当然だというように頷く。
一方、投げ飛ばされた沖田はというと、食事台にぶつけた頭を撫でながら文句を言っていた。
「冗談通じねぇな。もっと頭は柔らかくするべきですぜぃ?」
特にお前ら、と女性2人を指差す沖田。その背後に、刀が突きつけられた。
4人の男が沖田を囲み、そのうち3人は刀を向けている。さすがに、沖田も警戒しているようだ。
唯一刀を持たずに沖田を見下ろすのは、1番権力がありそうな細目の男。彼はゆったりした口調で歓迎の言葉を述べ始めた。
細目の男は"東城歩"と名乗る。ここ、柳生家の守護を司る四天王の1人であるという。
「紹介しましょう」
黒髪で眼鏡をかけている男が北大路斎。
遊び人のような見た目の男が南戸粋。
一番がたいがよく、厳つい男が西野掴。
この4人で四天王なんだと彼は語った。