銀魂 長編

□第六話
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やはり、相性は悪かった。先程のやり取りを見て万事屋と真選組の険悪さの程度は把握できたつもりだったが、どうやら間違いだったらしい。


瑠璃は、前を歩く2人を凝視した。


「煙臭いネ、ファブリーズほしいアル」


「んなもんねぇよ」


土方は普段から、どんなに苦手な人であってもその気持ちを表に出さない。真選組の副長として、社交辞令は必須だからだ。


しかし、万事屋に対しては、土方の社交辞令は完全にオフだ。ぶっきらぼうな言い方からそれが察せられる。


険悪じゃない、"とても"険悪なのだ。だがお互いの強さを知っているから、背中を預けることができる。


相性は最悪、しかし組むとなると最強。不思議な縁で結ばれているのだと、瑠璃は判断した。


「瑠璃、こんな奴らといて楽しいアルか? 本当は嫌なんじゃないアルか??」


「え、そんな、ことは……」


「んなことねぇよな、瑠璃。昨日だって山崎と楽しくミントンしてたもんな」


「そう、ですね……」


「ジミーの遊び相手にしてんじゃねぇヨ! あんな奴に付き合わせるなんて、瑠璃の時間が勿体ないアル!! 地味が移るし!!!」


「た、楽しかったですよ。み……みとん?」


土方と神楽は口論が止まらなかった。そして、何故かそこに瑠璃を挟んでいた。


瑠璃は、2人が気を遣ってくれているのかと思っていた。1人だけ話に入れない事態を避けるためなのだと。しかし、そういうわけでもなさそうだ。


土方は喧嘩の際に人を巻き込むことも多いので、きっと今回もそれだろう。神楽は瑠璃の心配をしているだけなのだが、土方を良く思っていないために喧嘩腰になっていると見える。


巻き込まれた瑠璃は、ひどく困っていた。どちらも嫌な気分にならない言い方を、慎重に選んでいる。


私…どうしたら…。考えてまた、瑠璃は密かにため息をついた。しかし、両隣の二人は言い合いに夢中で全く気がつかないようだ。


瑠璃は、両隣を気にしながら歩く。その時、ちょうど前方に見える廊下で女性の姿を発見し、「助かった」と思った。


ほっとした瑠璃は表情を微かに緩め、言い合いを続ける土方の着物の袖を引っ張った。


「副長、あそこに女性が」


喧嘩は止めましょう、という意味も込めて見上げると、土方は廊下を歩く女性を見やった。


「おいチャイナ、一時休戦だ。瑠璃、でかしたぞ」


ぐしゃぐしゃと瑠璃の髪を撫でてから、土方は走った。


神楽も土方に着いていき、皿が欲しいと女性に身ぶり手振りを交えて伝えている。


先ほどの位置から動かずにその光景を見る瑠璃は、そっと土方が触れた頭に手を置いた。


ぼーっ、と土方を見つめ、瑠璃は頭から手を離す。唇を一瞬ぎゅっとつむってから、ぼそりと呟いた。


「……副長、またですか」


こういうことは、たまにある。


瑠璃は現在、22歳だ。しかし、土方は少し前まである勘違いをしていた。


迎えにきてくれた、4ヶ月前のこと。土方は、瑠璃のことを20歳未満の少女と思っていたことが判明した。


そのためか、土方は今でも瑠璃のことを子どものように扱うことがあった。さっきのように頭を撫でるという行為は、月に1〜2回ある。


そして、そのどれもが無意識だ。土方は瑠璃に触れたあと、いつも目を見張って、「しまった」というような顔をする。そして、悪い、と謝って苦笑い。


その一連の流れは、治らない。きっとそれは、土方が今も瑠璃を子どものように見ているからだ。


以前、言っていた。それは年齢を知った時のこと。


子どもだと思っていたのに、急に大人だと知ってしまった。だからどう接すればいいか分からなくなってきた。


そういった感じの言葉だ。


土方は瑠璃を1人の大人として扱おうとしてくれる。だが、心の底に今も残る"子どもと思っていた瑠璃"がそれを邪魔するのだ。


土方が頭を撫でてしまい、苦笑いする。それが無くなった時、それこそが瑠璃が子どもに見えなくなったという証明だろう。


早くそうなってほしい、そう思う。だが同時に、そうならないでほしいと願う自分もいる。


頭に残る手の感触、それがとても心地いい。だからいつも、その瞬間が来るのを期待している。


「……はあ」


息をついて、土方と神楽の元までゆっくりと歩いていった。


自分は馬鹿だ、そう思いながら。
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