銀魂 長編

□第十一話
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「秋祭り……?」


言われた言葉を繰り返すと、近藤は頷いた。


「1週間後、かぶき町の公園で行われるんだ。そこに将軍様の妹君であるそよ姫が見学にいらっしゃる」


「将軍家の方が?」


土方は ああと頷いた。土方が言うには、瑠璃が入隊する数日前の夏にも同じようなことがあったそうだ。


その時はそよ姫ではなく、将軍本人がやってきたという。しかし、祭り自体は騒ぎによって滅茶苦茶になってしまったと土方は語った。


「そよ姫は庶民の祭りがどうしても知りたいらしくてな。兄からその話を聞いているだろうに、自分も見たいと言って譲らないととっつぁんが困ってたよ」


「自分が高貴な身分であると自覚して、我慢するってことを覚えてほしいもんだぜ、全く…」


瑠璃は頷き返すが、ここまで聞いた限りでは、何故自分だけが呼び出されたのか分からない。


明日の会議で全隊に伝えると言っていたし……と瑠璃は心のなかで呟く。


瑠璃の心中を察したのか、土方はようやく本題に入った。


「お前に頼みたいのは、そよ姫の護衛だ」


「同性の瑠璃ちゃんが適任だとトシと話し合って決めたんだ。受けてくれるか?」


瑠璃は少し沈黙した。信頼して任せてくれるのは嬉しいのだが、相手は将軍家。


もしものことが起こったとき、自分が対処できるか不安だ。瑠璃はまだ斬り込みを経験していないし、剣の腕前も一般人に毛が生えた程度だと自覚している。


また、自分は人と接するのが得意ではない。そよ姫を退屈させてしまうのではないかと不安になった。


「もしもの時はすぐに駆けつける。それに大丈夫だ、並の攘夷浪士くれぇならお前は十分太刀打ちできるよ。俺が保証してやる」


「もちろん、姫様の見学は公にしていない。今知っているのは将軍家ととっつぁん、あとはここにいる俺たちだけだ」


余程の事がない限り、対策は万全というわけだ。だが、だからと言って安心はできない。


俯いて顔に影を落とす瑠璃を見て、土方は「おい」と声をかけた。瑠璃は顔を上げ、土方に返事をする。


「お前なら大丈夫だって。簡単に言えば、見廻りが護衛に変わっただけだぞ?」


怒られてしまった、そう感じた瑠璃は すみませんと頭を下げて謝る。気のせいか、少ししおらしい。


そんな2人を見て近藤は豪快に笑った。


「まあ、無理にとは言わんよ!瑠璃ちゃんが嫌ならそれでもいい。だが」


近藤はにっかりと笑って瑠璃を見る。


「俺たちは瑠璃ちゃんなら任せられると思い、頼んだ。それは分かってほしい。あんまり自分の能力を低く見ようとしないでくれ」


瑠璃は戸惑うように視線を泳がせ、意味を持たない言葉で唸った。近藤と土方は、それが照れている証拠だと知っている。


だから笑って見守った。


その一方で瑠璃は改めて考え直した。近藤と土方、尊敬する二人が認めてくれたというなら、自分は頼みを受け入れるべきではないだろうかと。


不安は多く、自信はほぼない。だが、いつまでも自信を持てない弱い自分ではいられない。


少しずつ変わっていくためにも、この頼みを受け入れた方がいいのではないだろうか?


土方も、近藤も、みんないる。もし予期せぬ事が起きても助けてくれる。それならば、自分は緊急事態が起こらないよう祈りながら、姫に付き添っていればいい。


むしろ、力を持たない自分が動き回る方が却って迷惑ではないのか?


などと考えながら、瑠璃は1つの答えを導いた。


「……頑張ってみます」


気がつくとそう答えていた。近藤と土方は喜び、優しく笑ってくれた。


「ありがとよ」


「頼んだぞ!」


土方に感謝された。近藤に頼られた。


瑠璃は自分の決断が正しいのか分からないままだが、2人が喜んでくれているならそれでいいかと思えた。


警護の日までに出来ることはしよう。そう思いながら、瑠璃はいくつか当日のことを確認して部屋を出た。


大役を任せられたことによる重圧で胃の辺りが痛むような気がした。しかし、想像よりは心が軽い。


頑張ってみよう、と前向きに考える自分もいる。その事に少し違和感を覚えるほど驚いたが、嫌な気はしなかった。
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