銀魂 長編
□第十三話
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賑やかな空間だ。行き交う人は皆、ずらりと並んだ店頭の商品に目移りが止まらない。
「アイス食べたい」
「期間限定のやつ、美味しそうだったよね」
若い女の子の2人組が、アイスクリームの話で盛り上がっている。
そのすぐ側の壁際で、私服に身を包んだ瑠璃がため息をついた。
行き交う大勢の人たちは、こちらを見向きもしない。俗にショッピングモールと呼ばれるこの場所は、瑠璃にとって異国に似ていた。
「ゲーセンでプリ撮ってさ〜」
「エドバの新作超美味い」
「ただいまタイムセール実施中です〜!」
店員も行き交う人たちも、みんな訳の分からない言葉を口走っていた。
そんな場所で何故、突っ立っているのか?その理由は至って単純だ。
共に買い出しに来ていた土方とはぐれた。つまり、迷子である。
心細くて、どうにかなってしまいそう。そんな時に、懐で携帯が震えた。
慌てて携帯を取り出し、ボタンを押した。瑠璃は縋るような情けない声で土方を呼んだ。
「副長……どこにいるんですか……?」
よく犬に例えられる瑠璃だが、今回ばかりは自分でもそう思った。まるで、行き場を無くしどうすればいいか分からない、捨てられた子犬のようだと。
電話の向こうで、土方が笑いを含んだ声で返事をした。
「今から行く、どこにいるか教えろ」
瑠璃は周りを見回し、目印になりそうなものを探した。
ここは2階。店がたくさん並ぶばかりで、目印になりそうなものはない。となると、1階で代わるものを探した方がよさそうだ。
「2階にいます。下に噴水が……あと、その近くに、……"ぱてぃすりー"? というお店が」
「噴水とパティスリー?……ああ、あそこか。じゃあ、噴水の前で待ってろ」
それだけ言うと、土方は電話を切る。その瞬間、また不安が心を覆った。
大丈夫、会える。自分に言い聞かせ、瑠璃は噴水の元へ向かった。
階段を早足で駆け降りると、瑠璃は噴水の前で足を止める。辺りを忙しなく見回すが、視界に映るのは見知らぬ人ばかり。
どこだろう、どこだろう、と土方を探して目玉は右へ左へ動いた。それを繰り返して何分か経ったとき、不安そうに見えなくもない彼女の耳に安心する声が届いた。
「瑠璃!」
隣に土方が並ぶ。いくつかのビニール袋を片手に持っている彼は、瑠璃を見るなりため息をついた。
「お前が小さけりゃ、手でも繋いでやったのに……」
「すみません……」
数十分前、瑠璃に幼い男の子がぶつかった。彼は手をアイスを持っていため、瑠璃の着物は汚れてしまったのだ。
それを洗いたいと言って、瑠璃は1度厠に向かった。土方は近くで待っているといい、1度離れた。
厠から出てきてすぐ、瑠璃は土方の背中を見つけて付いていったのだが、それは背丈と着物が似ただけの他人であった。
うろたえる瑠璃と、何も知らずに待つ土方。さすがに遅いと感じて電話をかけたのが、先程のやり取りに繋がる。
「さて、合流したところで……続きだ。さっさと終わらせようぜ」
「はい」
2人は並び、大勢の人たちに紛れた。もうしばし、ここに用がある。