銀魂 長編

□第十五話
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歓迎会から1週間が経った。瑠璃は部屋の壁に貼り付けたカレンダーをじっと見つめている。


「5ヶ月……」


5ヶ月前の今日は、瑠璃が真選組に入隊した日だった。


相変わらず話せない人もいるが、それでも以前よりはここに馴染めたはず。入隊当初を振り返り、瑠璃は自身を見下ろした。


この制服も、腰の刀も、なかなか様になってきたのではないだろうか? などと考え、口元を緩める。


「副隊長、失礼します! 」


そんなことをしていたとき、突然障子の向こうから声がかけられた。びくっ、と肩を震わせ、瑠璃は驚いた。


少し浮かれていた自分が恥ずかしい。こほん、と咳払いをして、ほんの数秒前の自分を消し去った。


口を真一文字に、目尻は床と平行に……真顔というものをしっかりと作ってから、瑠璃は障子を開く。


「どうされましたか」


障子の向こうには1人の隊士がいた。彼は1番隊に所属している直属の部下だ。


「この書類、今日までなんです。判子くれませんか?」


「それは、沖田の役目です。……あ」


言ってから瑠璃は思い出した。今朝、出張に出た2人を見送ったことを。


うっかりしていた。土方と沖田は武州へと旅立っていて、1ヶ月は帰ってこないのだ。


2人のいる生活が当たり前すぎて、見送ってからまだ半日も経っていないのに2人の不在を忘れていた。


「分かりました、私が押します。少し、待ってください」


気を取り直し、瑠璃は紙を受け取った。机の側まで歩き、引き出しから"如月"の印章を取る。


しっかりと押印し、瑠璃は彼に書類を返した。


「では、このまま副長の元に持っていってください」


「副長の机の上に置いてて大丈夫ですか? 」


「今の時間なら、ご在室のはず、……あ」


瑠璃は片手で額を押さえた。仕切り直し、改めて指示を出す。


「私が預かり、後で局長に、提出します」


「はい、お願いします」


書類は再び瑠璃の手元に戻った。両手でしっかり挟みながら、瑠璃は小さく吐息を溢した。


土方と沖田は不在なのに、どうしても間違えてしまう自分が情けない。


少し気分を落ち込ませている瑠璃を見て、彼は気遣うように優しく笑った。


「副隊長、大丈夫ですか? あの2人いなくてかなり不安でしょ」


「……いいえ、そんなことないです」


大丈夫です、と言って瑠璃は振り返った。時計は、午後の2時を示している。見廻りの時間だ。


「見廻りの時間ですね。……2人がいないのは、たった1ヶ月だけです。私が1番隊を守れなければ、沖田に叱られます」


「あんまり張り切りすぎないでくださいよ」


「はい。……私は、沖田を呼んでから玄関に行きます。……あ」


「副隊長、そんなに2人がいなくて寂しいんですか!? 」


自分でも重症だと思った。こんなことで、副隊長の職務を果たせるのだろうかと不安になる。


彼らの名前を出す度に、自分がどれだけ彼らを頼っていたか思い知らされるのだから。


はあ……と重いため息をつく瑠璃に、彼は笑いかけた。


「隊長がいなくても1番隊は大丈夫だった、って帰ってきたら言えるように頑張りましょうね」


「そう……ですね。沖田が心配しないよう、頑張らなくては」


瑠璃は俯き、目を細めた。自然と手に力がこもり、書類に少しのしわができる。


土方と沖田が帰ってくる頃には、瑠璃も副隊長に就任して半年になる。


今は実力不足であることを否めないが、この沖田不在の期間に努力し、役不足と言ってもらってもいいくらい飛躍したいという気持ちが瑠璃にはあった。


もうお飾りの副隊長などと誰にも言われず、堂々とこの役を全うしたい。


それくらい、瑠璃は"副隊長"の仕事に遣り甲斐を感じ、誇りとしていた。


「とりあえず、今は見廻りの準備を。点呼を済ませておいてください」


「了解です! 副隊長はどちらへ? 」


瑠璃は彼に背を向け、歩きながら答えた。号令する人が必要でしょう?と。


「呼びに行ってきます。副長を」


「副隊長っ! また間違ってます!! 」


「……そうでしたね、局長でした。すみません」


またしても2人の不在を忘れてしまっていた。今、記憶力はかなり低下しているようだ。


瑠璃はふう、とため息をついて空を見上げた。


この空の続く下、少し離れた場所にいる2人を思いながら。
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