銀魂 長編

□第十六話
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「そういや、昨日の美人、如月副隊長の姉貴だったってな」


「そっくりなんてもんじゃなかったよな。コピーしたみたいだった」


この会話は、真選組屯所内のとある一室で行われていた。


集まっている5人の隊士は肩を円形に並べ、週刊の漫画雑誌を回し読みしながら、声を潜めて話していた。


「しかも、父親はあの如月刀工らしいぞ」


「え、マジで!? 」


「昨日盗み聞きしたやつが言ってたぞ。副長が家のこと聞くの禁止してるし、俺も全然知らなかった」


コネで刀作ってもらえねぇかな、と彼はぼやく。周りは彼を笑い飛ばし、再び話の中心を双子にする。


「つーか、如月さんって美人だけど、暗いし何考えてるか分かんねぇし胸ないし、残念だよな。肝心の顔も髪で隠してるし」


「逆に姉さんは雰囲気よかったよな。笑顔が可愛かった。笑ったら可愛くて、普通の顔は綺麗って最強すぎねぇ!? 」


「着物の上からでも分かる。あの人は……結構巨乳だ! 」


隊士たちは舞い上がった。瑠璃と違って愛想がよく、体つきも女性的である瑠衣を大絶賛している。


1人はこう言った。瑠璃ではなく、瑠衣が入隊してくれていればよかったのにと。


冗談半分で数人が笑う。すると、この中で唯一の1番隊隊士であった佐藤は怒りを滲ませた。


「冗談でもそういうこと言うなよ! 副隊長は確かに喋んない人だけど、それでもいい人だ!! 」


「でも俺この前、廊下ですれ違った時に頭下げたのに、向こうガン無視! さすがに傷つくよなあ」


「なんつーか、こう……特定の人とは関わりたくありませんって感じ? あんなんじゃ、いつまでも馴染めねぇよな」


「そうそう。副隊長なんだから、もっと周りと話した方がいいよな。いつか足をすくわれるよ、今のままだと」


彼らの言うことは間違っていない。瑠璃は人付き合いが希薄で、土方も沖田もいない今、まともに話せるのは隊内に両手で数えても指が余るほどしかいないのだから。


佐藤は口を噤んだ。昨日も、同じく1番隊に所属する同僚が同じような事をぼやいていたからだ。


「ていうか、大丈夫かよ、こんな話してて。如月副隊長に聞かれたらやべぇだろ」


「それなら大丈夫だろ。如月さん、姉さんのとこ行くとかで昼前に屯所出たし」


「え〜、お姉さんこっち来ればいいのに! あんな眼福美女、みんな大歓迎なのにな」


残念がる一同に、佐藤は嫌な予感を感じた。 根拠はないが、瑠衣の存在が瑠璃を脅かすような気がしたのだ。


「つーかあれじゃね? 姉貴と比べられてあんなのになった可能性あるんじゃね?? 」


「たぶんそうだよ、あんなに完璧な美女が近くにいたら、どんな女でも負い目感じるだろ」


隊士たちはまた、好き勝手なことを言って盛り上がる。佐藤だけが、彼らの言葉に笑えなかった。


『私は……だめですね』


頭のなかで木霊する。それは、先日彼女が言ったことである。


他の誰でもなく、彼女自身が1番よく分かっていた。一個人としての如月瑠璃を変えていかなくては、副隊長としての如月瑠璃は生きていけないと。


彼女自身は変わりたいと願って努力をしている。それなのに望むように変われず、嘆いている。


そしていつか昇るべき高みをしっかりと見上げて距離を確認し、また努力を重ねるのだ。


しかし、瑠璃を批判する彼らは瑠璃の足元ばかり見ていて、彼女の視線がどこに向いているか気づかない。


「お前ら、副隊長のこと何にも分かってねぇよ」


佐藤は悔しそうに呟いた。


表に感情が表れない代わりに、彼女は言葉や仕草でそれを教えてくれる。


照れた時には顔を赤くし、小さな声で呟く言葉をいつもより噛んでしまう。


心配する時には手が落ち着きなく空を掻き、消えそうな声で様子を確認する。


嬉しい時には僅かに声が弾み、頭や頬に触れる回数が極端に増える。


一緒にいる時間が増えるごとに見つけた特徴だ。1番隊に所属する隊士は、こういった特徴を少しずつ見つけて、瑠璃のことを理解してきた。


彼女なりに頑張って、歩み寄っている。それなのに彼らは、「暗い」だとか「不気味」だとかいう言葉で遠ざける。見向きもせずに、背中を向けて歩き出すのと一緒だ。


そんなことをしていれば、距離はいつまでも縮まらない。瑠璃と彼らは、馴染めない。


どうすれば瑠璃の願いを叶えられるのか。部下として、仲間として、佐藤は悩んだ。
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