銀魂 長編

□第十七話
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沙弥と顔を合わせる時間がないまま、5日が経過しようとしていた。瑠璃は毎日その事が頭によぎって、苦しい思いをした。


謝りたい気持ちはある。それなのに、それを邪魔するのは姉だった。


話したいと思う人には会えず、どこかへ去ってほしいと願う人に会う毎日が続いていた。


「瑠璃ちゃん、お姉さん来てるよ」


今日も来た。悪くないとちゃんと理解しているが、恐怖の来訪を告げる山崎が少し憎らしい。


瑠璃は頷き、山崎の横をすり抜けた。目を合わせたくないというように俯いて。


「……なあ、俺、嫌われたと思う?」


近くにいた隊士に問うが、彼は首を傾けるだけ。すると、近くにいた別の隊士が山崎を呼び、小声で話した。


「最近は誰にでもあんな感じで態度悪いぜ」


声をかけただけで睨まれた。挨拶しても返してくれなかった。


そういったことがよく起こっていると初めて知った山崎は、目を丸くすることしかできなかった。


それは誰?と思うほど瑠璃のイメージとかけ離れているのだから仕方ない。


「いつから?」


「あー……5日前くらいか?」


5日前といえば、瑠璃が沙弥と最後に会った日だ。山崎はその日、瑠璃の様子に驚き、印象に深く残っているので間違いない。


出かける前は特に変わった様子がなかった。しかし、帰って来た瑠璃は、ひどく落ち込んでいて、精神的に参っていた。


虚ろな目でふらふら歩く姿を不審に思い、山崎は訊ねた。何があったの? と。


すると、瑠璃は答えた。


『放っておいて』


蚊の泣くような小さな声で、氷のように冷たい声で、彼女はそれだけ言った。


意図的に無愛想な態度取ったように思えた5日前の瑠璃に今日まで疑問を抱いていたが、本人の意思を尊重し、深入りすることはしなかった。


だが、どうやらそれは良くなかったらしい。山崎は瑠璃への不満を露にする同僚を見て確信した。


「この前なんか嫌なことがあったっぽいし、それでイライラしてるんだろ、きっと」


「なるほどな。つまり八つ当たりされてるわけだ、俺もお前も」


表情があまり変わらず、口数も少なく、人見知りである瑠璃はよく人に誤解される。


周りを見下しているから人と話さないだとか、土方がいないと猫を被る必要がないから無愛想だとか、そういった噂を流されることは多々あった。


いつもは土方や沖田によってその誤解が大きくならないうちに処理されていたが、今はその2人がいない。


瑠璃は今、盾を持たない状態で戦場に立たされているのと同じだ。このままでは、彼女は鋭い悪意に貫かれ続けてしまう。


悪意から守る盾、共に戦う協力者が必要だ。


「気に入らないことがあったら瑠璃ちゃんに直接言えばいいだろ。あの子はいい子だから、ちゃんと直してくれるはずだって」


自分が、盾になろう。山崎はそう決心し、不満を口にした彼を嗜める。


「ていうか、瑠璃ちゃんって声小さいだろ? たぶん、お前が聞こえなかっただけで、無視されたわけじゃないと思うんだけどなあ」


「言われてみれば……。そうか、確かに声小さいもんな。俺の勘違いかもしれん」


「絶対そうだって。俺も最初は何度か合ったもんだよ」


彼の顔から不満が消えた。山崎は胸のうちで、よっしゃと呟く。瑠璃の役に立てたようで嬉しかった。


彼女が最も信頼する上司と、彼女を最も自然体にさせる上司が帰還するまでは、山崎が彼らの代わりを果たせるよう努めようと思う。


山崎は、虚ろな目を思い起こす。


「副長も沖田隊長もいないから不安なんだよ、たぶん」


彼らが帰れば、きっと瑠璃は大丈夫だ。しかし、帰るのは待っていられない。


自分たちが、彼らのようになるべきだ。瑠璃に自然体で振る舞ってもらえるほど信頼され、悩みを相談してもらえるほどに。


道は果てしないかもしれない。しかし、いずれはそうなるべき。


ならばそれは早い方がよい。山崎は決意新たに、笑って見せた。


「俺たちで支えよう。新人はみんなで面倒みるもんだろ?」
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