銀魂 長編

□第十九話
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絶対に現状を変える、変えてみせる。強く心の中で唱えながら、屯所に続く道を走った。


銀時も沙弥も背中を押してくれたのだ、今ならきっと、真選組の仲間たちにも真実を話せると思えた。


全力で走ると息が切れて、脇腹が痛くなった。それでも止まらず、彼らの元へ急ぐ。


貰った勇気が消えないうちに、1秒でも早く声にしたかった。


今までごめんなさい、と。


走って走って、ようやくたどり着いた。屯所の門に触れ、一息つく。


「っはあ……っはあ……」


この門をくぐり、玄関を抜けてからが勝負だ。もう嘘を付くことはやめ、彼らに誠の信頼を寄せると誓わなくてはならない。


息を深く吸い込み、背筋を正した。両手を握り締め、一歩一歩踏み締めて歩いた。


「ただいま戻りました」


賑やかな声が遠くから聞こえる無人の玄関。たまに誰かがいて、挨拶を返してくれる。


それがいつもの、瑠璃にとって当たり前の光景だ。それなのに、今日は珍しく、近藤を含む10人程の隊士がそこにいた。


皆、厳しい目で瑠璃を睨んだ。まるで、腹に猜疑心でも抱え込んでいるような目だ。


不審に思い、何事かと尋ねようとしたその時、近藤が口を開いた。


「今までどこにいた、瑠璃ちゃん」


鉄のように冷たく、緊迫した声だ。只ならぬ様子であると認識し、瑠璃は息を飲んだ。


「沙弥さんの所に」


やましいことは何もしていないので、冷静に答えた。しかし、何故か皆がどよめいた。


ただ親しい人の家に行っただけなのに、何故驚かれるのか。疑問に思っていたその時、門の方から騒がしい声が聞こえた。


振り向けば、そこには1人の男を羽交い締めにする山崎と佐藤の姿があった。男は興奮し、暴れている。


瑠璃は状況が読み込めずに困惑した。だが、誰も説明してはくれない。


拘束された男は、瑠璃を見るなり目を見開いて叫んだ。裏切り者、とそれはそれは大きな声で。


「お前のせいだ! お前があんなことを頼まなければ、俺は今頃っ……!! 」


山崎と佐藤は男を床に押さえつけ、無理矢理黙らせる。それでもまだ何かを叫び続けているが、床に密着した唇がその言葉たちをただの雑音に変えてしまう。


「な、何言って、るんですか。私、そんな人、知らな──」


「とぼけないで」


山崎の後ろから、瑠衣が顔を覗かせる。沙弥が付けた手形をうっすら浮かばせる頬を撫でながら、彼女は怯えるような顔で瑠璃を見つめていた。


彼女の服は泥で汚れていて、髪も乱れていた。何かの騒動に巻き込まれたような風貌だ。


「瑠璃、お父様に手紙で知らせたんでしょ? 私が江戸にいるって」


「そんなこと、してませんっ。それに、そんなの」


できない、と言いかけたその時、瑠衣は遮るように「嘘つき」と叫んだ。


「私のこと憎かったんでしょ!? 沙弥ちゃんも真選組のみんなも、みんな私に盗られたってこの前怒ってたじゃないっ!」


「そんなの、言ってないっ」


「嘘つかないで! でも、それだけなら許せた。でも……」


瑠衣は俯き、体を抱き締めた。小さな声で、彼女は嘆く。


「でも……、お父様に伝えたのは、許せない。そのせいで、私はこの男に誘拐されそうになったのよ? 山崎さんたちが通りかからなかったら、きっと、今頃……」


肩を震わせて崩れ落ちる瑠衣に憐憫の目が注がれる。それなのに、彼らはよく似た顔の瑠璃には正反対の眼差しを向けた。


蔑むような、怒るような、非難の目。それは村人の目を彷彿とさせて、瑠璃の心臓はどくんと震えた。


「あ……、っう……」


言いたいことはあるのに、喉が震えて声が出ない。心臓は耳の隣に位置しているのかと錯覚するくらい音がうるさい。


瑠璃は目の前の仲間たちに、かつて自分を虐げた村人の姿を見ていた。


項垂れ、瑠璃は膝を着く。かつての恐怖によってそうなったのだが、彼らは別の意味で捉えた。


「──2人とも、留置所へ」


近藤の声が虚しく響く。瑠璃は仲間たちに肩を掴まれた。刀と携帯電話が、彼らによって没収される。


たった今、彼らは判断した。瑠璃は事実を突きつけられ、弁解の余地がない裏切り者であると。


これより行くのは、冷たく暗い囲いの中だ。
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