銀魂 長編
□第八話
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「と、いう訳です」
「理解が追いつかねぇけどおおおお!?」
先ほど合流したばかりの土方と新八に結果を説明すると、2人はとても驚いた。
そんな2人を前にして、瑠璃は他のことが気になって仕方なかった。
「私たちのことはいいとして……副長、それはなんですか?」
土方の顔は、頭から流れている血が垂れて赤い線を何本も作っていた。そちらもとても心配だが、瑠璃は口元の方に目をやった。
口にくわえているものは、先から激しく火花を噴き出して綺麗な輝きを放っている。
土方に近づきたくとも、瑠璃たちはその火花のせいで距離を詰めることができなかった。
瑠璃としては自分たちのこと以上にそれが不思議だったのだが、土方は「成り行きだ」と適当に返事をした。
「お前敵のはずだろ!? なんで瑠璃になついてんだ、なんで瑠璃も普通に話してんだ!?」
「なーりーゆーきっ!」
「土方さん、たぶん望む答え返ってきません。あの2人出会いからおかしかったですもん、常識当てはまらないです」
刀で斬りつけてきた女と、斬られかけた女。普通であれば仲良くなるはずがない。
「そういえば、局長は?志村さんはたしか、一緒に行動していたはずでは……」
新八と近藤、沖田と銀時、土方と神楽と瑠璃。この組で別れたのだ。新八がいるなら、近藤もいないとおかしい。
新八は思い出したように ああ、と呟き、すぐ隣の建物を指差した。
「用を足してくる、って言ったきり帰ってこないんですよ。そういや、かなり時間経ってます」
なるほど、ここは厠だったのか……。と納得する瑠璃だが、その隣の沙弥は怪訝な表情をした。
「ここを使ってるの?だとしたら、様子見に行った方がいいと思うけど……」
「え?なんで??」
新八の問いに答えようとして沙弥が口を開く。しかし、その言葉は土方の声に掻き消された。
土方の言葉で瑠璃も目線の先を辿ると……その先にいたのは、柳生九兵衛と東城歩だった。
迷いのない足取りで、まっすぐこちらに向かってきている。
「何故、気づかれたのでしょうか……?」
声を潜めて言う瑠璃の、少し離れたところで光を放ちながら音を立てるものがあった。
「瑠璃さん、絶対この人のせいです! どっから拾ってきたか知らないけど、花火くわえてるこいつのせいです!!」
新八に言われて土方を見ると、確かに口にくわえてる物は先ほどより燃えていたし、「見つけてくれ」と言っているような物だった。
「馬鹿、消しなさいよ!火事になったらどうするの!?」
「つっこみそこぉ!? 確かに大事なことだけど!!」
大声でつっこむ新八を制し、土方はくわえていた花火を消した。瑠璃に向き直り、指示を出す。
「瑠璃、お前は先に行ってろ! あとで追い付く!!」
そういうと、土方と新八は厠の中に呼び掛けた。しかし、中にいるはずの近藤から返事がない。
沙弥は改めて、先程の続きを言おうとした。
「念のために様子を見に行った方がいいわ。だってここ、」
何かを言いかけた沙弥の手を取り、瑠璃は走り出した。つい反射的に駆け出してしまった沙弥が、瑠璃を見つめた。
「沙弥さん、眼帯の人が迫っています。副長に任せて、今はここを離れましょう」
ね、と言う瑠璃を見て、沙弥は笑顔で頷いた。
「瑠璃様が言うなら! あの厠は滅多に掃除していないなんて、もうどうでもいいです!」
ニコニコ笑って瑠璃に着いていく沙弥は、とんでもないことを暴露した。思わず足を止めそうになるが、瑠璃は表情だけに止めて沙弥に問いかける。
「では、紙や石鹸といった……衛生用品は?」
「さあ? たぶんないんじゃないですか? みんなあんな所使わないし、掃除もやってないし。輿矩様は壊そうか検討中みたいですよ?」
「……心配ですけど、戻れないですね」
上司が敵陣で危機的状況かもしれないが、今戻るのは良策ではないと知っている。
せいぜい、祈ることしかできなかった。