銀魂 長編
□序章
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走り続けてどうにかやって来たのは、古ぼけた神社だった。階段を登り切った頃には息が切れた。
呼吸を整えながら神社の裏まで歩き、柱の後ろで座った。両膝を抱え、顔を埋める。
自分は人間のはずなのに……誰も人として扱ってはくれない悲しみ。
道を歩くだけで心ない言葉や暴力を受ける理不尽。
それらを嘆くような感情は持ってはいけなかった。
生かしてもらえるだけありがたいのだから。
でも、『誰か助けて』と。
そう言えたらどれだけ楽なのだろうか。
ここの住民の中でたった1人だけでも、その言葉を聞き入れてくれる人がいればどれだけ救われるのだろうか。
この村には絶望しかない。
この世に生を受けたときから、如月瑠璃の人生には絶望しかない。
この村にいる限り、自分には希望なんてものは与えられないと思うのが決まりだった。
この村を出たい、と何度思っても出る宛がなかった。
出たところで、外の世界を知らない自分はすぐにのたれ死ぬ確率が高かった。
それを考え、また絶望した。
そうして後ろ向きなことばかりを考えていたとき、人の気配を感じた。
ぞわっ、とした寒気が背中を駆け抜ける。パキッと枝を踏む音が聞こえた瞬間、心臓を掴まれたように感じるほど驚いた。
「おーい、総悟。隠れてないで出てこいよ」
低めの男性の声。聞いたことはない気がするけど、この村の人なら間違いなく私はここから逃げないといけない。
"総悟"という名前の住民がいたかを思い出すけど、村人との関わりは無いに等しいから思い浮かばなかった。
柱の後ろからそっと覗いて見ると、その人は茂みをガサゴソと探っていてこちらに気づいていなかった。
髪を1本に纏めている男性…確か、村長のところの…
私よりも2つ歳上で、この村で私を痛め付けるのが一番好きな人。
気づかれた場合、また何かをされるのは目に見えていた。手を握りしめ、息を飲む。
幸いまだ気付いていないようだった。ここより気づかれにくいのは、建物の下?
息を潜めて、ゆっくり移動しないと、気づかれる。そっと移動しないと。
音をたてないよう、静かに移動したのに、建物の下に入り込んだ時、ジャリッと音がした。
予想外の音に心臓は跳ね上がる。私はつい、声を出してしまった。
慌てて口を押さえたけど、すでに遅かった。その人は気づいてしまったようで、足音がこちらに近づいてくる。
「総悟、お前そんなところに居やがったのか……」
呆れるような男性の声がまっすぐこちらに近づいてくる。
どうしよう、どうしよう、としか考えられない。走って逃げても追い付かれるし、次に会ったときにどんな目に合わされるの……?
もしかしたら、殺されるかもしれない。
恐怖に体を支配されて、顔が青ざめていくのが分かる。
悩んでいる間にも足音が近づいてきて、草履を履いた足が見えた。
手だけを伸ばし、私を掴もうとする。どうにか避けようとしたのに、着物の襟が掴まれる。
自分のためにも感情は捨てていこうといつか決めたはずなのに、怖かった。
ズルズルと引きずられるなかで、必死に地面を掴むけど、掴めなくて。
私はどうなるの?殴られる?蹴られる?もっと痛いことをされる??
「大人しく捕まりゃよかったんだよ!」
勝ち誇ったような声は死の宣告のように聞こえた。真っ青な顔をして、抵抗もできずにそのまま引きずり出されてしまった。