銀魂 長編

□序章
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男の人は驚いたようで、言葉を失った。


私はきっと真っ青な顔をして、目を瞑っている。唇は震えたし、両手は固く握りしめていた。


彼は怖がらせてしまったことを悟ったのか、襟を離してくれた。


男の人が私を立たせ、慎重に声をかける。その声音は優しくて、安心感があった。


「怖がらせて悪かったな。そんなつもりはなかった」


そっと目を開け、男の人を捉える。


よかった、全然違う人だった…。


息をゆっくり吐きながら、崩れ落ちてしまう。地面に膝をつけるより先に彼が支え、その場にゆっくり座らせてくれた。


「大丈夫か?」


初めてかけられる労りの言葉に恥ずかしさのようなものを感じた。


でも、安心はできない。私は頷いて、じっと見つめた。


まだ若いけど、私より歳上に見える。歳上といってもそこまで離れておらず、2〜3つ上が妥当かもしれない。


整った顔立ちをしているから、村の女の人たちが見れば騒ぎ立てることが予想できる。


改めて、見たことがない人であることを理解した。


面識がないことと、先程誰かを探していたことを合わせて考えると…


この人は余所の村の者だ。


しばらく見つめていると、男の人が恐る恐る口を開いた。


「あんた……この村の人間か?」


その問いに、少し悩んだ。


この村の"人間"かという問いに、"化け物"の私が頷いていいのだろうか?


だけど、男の人は返事を待っている。私はとりあえず頷いた。


そして、この質問により彼が余所者であることを確信する。


男の人は数度頷いて、また質問をする。


「この辺りで栗色の頭のガキ見てねぇか?赤目の男なんだが……」


少し考えてから、小さく首を横に振る。男の人は眉を内に寄せ、質問を重ねた。


「じゃあ、今度はあんたについて教えてくれ。どうしてここにいたんだ?」


今までの質問は頷くか首を横に振るかで答えられたが、この質問はそういうわけにもいかない。


なんと答えればいいのか分からない。


悩む私がどう写ったのか、男の人はハッとしたように目を見張った。


何かを言いかけた男の人を、私は遮った。正確には私ではなく、私の意思とは関係ないものが遮った。


ぐうう……という音、大きな音を持って主張する私の空腹が会話を遮った。


腹を押さえたけど、もう遅かった。男の人がポカンとしている。


恥ずかしい、顔が赤くなる。表情は変わっていないと思うけど、顔の色は絶対赤くなっている。


少しの沈黙のあと、男の人が大きな声で笑った。あんまり笑う人に見えなかったから、少し意外に思った。


男の人は笑いを堪えてぜぇぜぇ言いながら、どうにか言葉をひねり出した。


「腹減ってんだな、ちょっと待ってろ」


そう言って、男の人は隣から立ち上がった。結った長い髪を揺らし、階段を駆け降りていく。


その後ろ姿を見送ってから、私はまた建物の下に身を滑り込ませた。
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