銀魂 長編
□第弐話
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徒歩10分程度で、とても大きな建物が見えてきた。目的地の大江戸スーパーだ。山崎はスーパーを指差し、
「あれがスーパーだよ」
と教えた。
瑠璃は不思議そうに目をパチパチさせて、スーパーを食い入るように見る。
「……すーぱーって、何するところ?」
「え、何するところって言われても…買い物するところかな?」
瑠璃の謎発言に対する答えを考え、山崎は頭をひねった。
買い物するところ……で合ってるよな?
それ以外に説明しようがないはずだ。自分の知っているスーパーは色んな物を売っていて、とても便利なところとしか説明できない。
だが、改めて聞かれると戸惑う。それが当たり前のことであれば尚更だ。
瑠璃は山崎の「買い物するところ」という言葉をもう一度繰り返してから、眉を寄せた。
「でも、広い。屯所より、広い。なんで??」
「それはたぶん、色んな物を置いてるからじゃないかな?ここ、結構何でも置いてるし」
野菜、惣菜、菓子、医薬品、日用品…指折り数えていくと、瑠璃は驚くように目を見張った。
「……すーぱーって、悪い所なの?」
「……ん?」
これまた謎発言に驚く山崎だったが、瑠璃は真剣な顔だった。
「だって、売ってるものは……住民から取り上げてるんじゃ、ないの?じゃないと、そんなにたくさん、有るはずがない。さっきから色んな人が籠を持って入ってるのも、取り返しに行ってるの?」
「いやいや、スーパーの中は毎日戦国時代じゃないから!取り上げてないし、取り上げられてもないから!」
瑠璃の中でのスーパーの恐ろしさ、そして何より想像力は凄まじかった。
山崎は考えた。
江戸に来て4ヶ月。それにしても、ここまで何も知らないってどういうことなんだ?
瑠璃の故郷は江戸からそう遠くはない。電車で行けば日帰りで行けると土方から聞いていた。
山崎自身出張で江戸から遠く、田舎と呼べる場所に行ったことがある。その場所でさえスーパーは合った。
瑠璃の生い立ちを知らないため、山崎には瑠璃の故郷がどんなものかは分からない。
しかし、どれほど気になろうが、家族や環境については聞くなと土方は言っていた。それを思い出し、聞きたい衝動をぐっと抑える。
「とりあえず、中を見た方が早いかもね。行こうか」
あまりいい顔をしない瑠璃を引き摺るようにしてスーパーに近づいていく。
入り口の前まで来て、自動ドアが音もなく開いた。山崎は慣れた様子で篭を取る。
「じゃあ行こうか、瑠璃ちゃん」
何を買うの?と言って隣を見たとき、気がついた。
瑠璃が隣にいない。
慌てて周りを見ると、瑠璃は自動ドアの手前で立ち止まっていた。
その目は険しい……ように見えなくもない無表情で、何かを警戒していた。
「瑠璃ちゃん、何かあった!?」
もしかすると何か危険物を見つけたのかも、と思って緊張が走る。瑠璃のすぐそばまで行ったとき、やっと彼女が立ち止まった理由が分かった。
「……悪霊、ついてる?」
真顔でそう言った瑠璃が指差すのは、人が通るたびに開く自動ドアだ。
緊張感が一気に溶けた山崎は はぁっとため息をつき…
「ただの自動ドアだよっ!!ついてるのはただのセンサー!!!」
と呆れ気味につっこむのであった。