銀魂 長編
□第参話
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名刺と銀時を交互に見て、瑠璃は ぽかんとしていた。
人は見た目で判断できないと聞くが、これはまさにそれのいい例だ。
まだ若く、そして何よりあまりやる気を感じられないように見えるこの男と、経営者という言葉は結びつかなかった。
「瑠璃ちゃん、先に言っておくけど、この人は無職に近いからね。一応社長だけど、ほんとに何もしてない人だからね」
そう言った山崎の頭を銀時が叩いた。よろけた山崎の肩を、銀時は続けてばしばし叩く。
「ああ?誰が無職だって??税金でジャンプ買いに来てるようなやつに人をディスる資格はねぇだろ」
「痛い痛い痛い!旦那痛い!!」
山崎の頭を掴んだ銀時は、あまり表情を変えずに手に力を込めた。銀時は少し楽しそうに見えるが、山崎の目には涙が浮かんでいる。
ハッとした瑠璃はどうにかして止めようと思うが、自分には何も出来ないことをすぐに理解した。
「……山崎君、頑張って」
とりあえず応援だけしてみたが、山崎は「助けてよ!」と叫んだ。無理だという意味を込めて首を横に振ると、彼はがっくり肩を落とした。
それにしても、この人……ちょっと副長に似たところがある。と瑠璃は思った。
見た目や性格はまったく違うが、楽しそうに山崎で遊ぶところなんかは似ていた。
屯所でいつも見る光景を思い出し、瑠璃は微かに口元を綻ばせる。
「頭潰れるううう!!」
山崎の絶叫は、銀時から加えられる力によって涙声だった。しかし、土方と山崎を見慣れている瑠璃の目にはそれほど深刻に映らず、
むしろじゃれあっているようだったという。
それから、どうにか山崎は解放された。頭を擦って痛みを和らげようとしている。銀時は手加減していたようだが、やはり痛いものは痛いみたいだ。
「それより、そのジャンプは譲ってくれねぇのかよ」
「まだ諦めてなかったんですか!?」
はぁ、と息を吐いて山崎は籠に入ったジャンプをそっと見た。
「これは沖田隊長に頼まれたんです。もし買えなかったら、あの人になんて言われるか……」
考えるだけで恐ろしい、と言うように山崎は肩をすくめた。
しかし、銀時もジャンプを探してここが五軒目だというので、さすがに気の毒だというものだ。
うーんと首を捻って悩んだが、山崎としては沖田を敵に回したくない。そうなると答えはやはり「譲らない」だ。
「気の毒ですけど、ジャンプは諦めてください。こっちは下手すりゃ命に関わるかも知れないんですから」
ね、と言って山崎は隣を見た。しかし、不思議なことに瑠璃が姿を消している。
「……って、瑠璃ちゃんは!?」
「姉ちゃんならさっき、俺がお前の頭グリグリしてたときにどっか行ったぞ」
なら教えろよ、というつっこみを抑え、山崎は辺りを見回した。振り返ってみると、雑誌コーナーに瑠璃がいた。
積み重なった雑誌を持ち上げたり、棚の奥を覗いたりしている。何をしているのかと思ったが、何かを見つけたらしく、手に1冊の本を持って戻ってきた。
「坂田さん、これ……。もう一冊、隠れてました。ほかの場所に」
瑠璃はそっと銀時に雑誌を差し出した。争いの種となっていたものと全く同じものだ。
「ん? おお、マジか。サンキュー」
銀時は満足げに受け取ると、パラパラとページを捲って中を確認した。
「ギンタマンはセンターカラーか……最近頑張ってんな」
そう呟いて本を閉じると、瑠璃を一瞥する。次の瞬間、銀時は瑠璃の頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
突然の刺激に驚き、瑠璃は両目を閉じた。だが、頭を撫でられていると理解すると、驚いたように目をパチパチさせる。
「ありがとよ、瑠璃」
銀時はジャンプ片手に持ったまま、瑠璃たちに背を向けた。ひらひらと片手を振り、レジの方に歩いていく。
さっと人混みに消え、銀時はすぐに見えなくなってしまった。
ぼーっとしていた瑠璃の横で、山崎が安堵のため息をつく。
「良かったぁ…! 瑠璃ちゃん、ありがとう!」
じゃあ行こうか、と言って山崎はレジの方にカートを押していった。
そのあとを着いていきながら、瑠璃は銀時のことを思い浮かべる。
坂田さんって……やっぱり、副長に似てる。
頭を撫でた大きな手を思い出し、瑠璃はそっと自分の髪を撫でていた。