銀魂 長編
□第四話
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それから数分後、剣道着に着替えた瑠璃が出てくる。
てっきり私服で出てくるとばかり思っていた2人だが、よくよく考えてみれば、瑠璃は休日のほとんどを屯所で過ごしていたことを思い出した。
しかも、その時は決まって私服ではなく剣道着だ。休日はもっぱら、道場で素振りをするか、誰かと試合をしているかのどちらかだ。
もしや私服らしい私服を持っていないのでは……という考えが口から出そうになったがぐっと堪える。
近いうちに街に連れていき、服屋を巡らせようと考え、土方は他に目を向けた。
視界に汚れた刀が入った。その刀の柄はかなり擦れていて、相当使い込まれた物だと一目で分かった。そして、土方にとっても見覚えのある物だった。
「それ……俺が使ってたやつだな。お前が持ってきたやつは使わねぇのか?」
瑠璃の刀は、真選組にやって来た時に土方が与えたお古の刀だった。瑠璃は刀をチラッと見て、また土方を見上げた。
「あれは、あまり好きではないので。それに……この刀は、副長にいただいた物です。誰かに、何かをいただいたのは、初めてです。すごく嬉しいので、使いたくて……」
そういうと、瑠璃は俯いた。この行動はいわゆる"照れ"に近いことを土方は知っている。
言葉なく、土方は口元だけで笑った。4ヶ月前のことを思い出したのだ。
刀を買い換える予定があったから、予備にでもなればと思って譲った。それだけなのに、瑠璃は大事そうに抱え、「ありがとうございます」と声を弾ませた。
人斬りの道具なのに、まるで幼女がぬいぐるみでももらったかのような、そんな反応を見せた。
「そんなに喜ばれたら、こっちも嬉しいぜ」
「嬉しい? 副長が嬉しいなら、私も嬉しいです」
なんとなく、瑠璃の雰囲気がぱああっと明るくなった気がした。もし彼女に犬の尻尾があったなら、パタパタと振っていることだろう。
優しい雰囲気に包まれる2人。その様子に、沖田は冷めた目を向けた。
「そういうのいいから、さっさと行きませんか?」
どうしてそこまで夢中なんだか、と心の中で呟いた。土方暗殺を試みる者としては、瑠璃の気持ちは理解できない。
瑠璃が完全に心を開いているのは彼だけ。犬のように従順である様から、絶大な信頼を寄せていることも一目瞭然だ。
土方と瑠璃の出会い、そして真選組にやって来るまでの経緯も知らない沖田にとっては謎ばかりだった。
まあ、何にせよ…
土方は気に食わねぇな、と沖田は心の中で呟いた。