銀魂 長編
□第五話
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勝負は7対7のサバイバル戦。柳生屋敷全てを使って行われるということだ。
勝敗は皿によって決する。大将の皿を割った方のチームに軍配が上がるというシンプルなものだ。逆に言えば、大将の皿以外であれば、何枚割られようが勝敗に関係はない。
「割られた者はその場で勝負から退場。ルールはそれだけ、あとは自由だ」
瑠璃はこの説明を聞きながら、相手の数を確認した。そこで、ふと疑問を抱えて首を傾けた。
それは近藤や神楽も同じようで、彼らに指を差して叫んだ。
「7対7って…そっちは5人しかいねぇじゃねぇか!!」
「おい、なめてんじゃねぇヨ!危うく騙されるとこだったアル!!」
九兵衛は答える。今ここにいる5人の中には大将はいない、既に大将はどこかに隠れていると。
「残りの1人は今ここで決めよう。そうだな……」
九兵衛は振り向き、門弟たちを見た。その中の1人、顔に傷がある男に目を止める。
九兵衛は彼を指名しようとした。
「ちょっと待ったあああ!」
その時、何者かが瑠璃に斬りかかった。前触れもなく起こった事態に、周囲はざわつく。
キィン、という音がして、瑠璃の頭上で2つの刃がぶつかり合った。どうやら、瑠璃は反射神経に救われたようだ。
「なっ……!」
小さく声を上げたのは九兵衛だ。少し混乱しているのか、ただ呆然と目の前の鍔迫り合いを見つめている。
「っ……!」
瑠璃は力いっぱい、刃を突き返す。相手が足をふらつかせると同時に走り、土方たちと距離を取った。
斬りかかってきたのは、沖田と同年代に見える少女だ。彼女は崩れたバランスを立て直すと、にっこり笑った。
「お姉さん、今のよかった!」
彼女は、刀身を下段に構えたまま駆け出す。見た感じ、足は早いようだ。
瑠璃は動かず、鞘に納め直した刀を力強く握った。ギリギリまで刀の軌道を見極めている。
半径5メートル以内に少女が入ってきた。すると彼女は、下に向けていた刀身を翻す。
そのまま、真っ直ぐに振りかぶる。その動きが予測できたから、瑠璃は脇腹と彼女の刀の間に自身の刀を滑り込ませ、10センチほど抜刀した。
彼女の刃は、鞘から少しだけ顔を出した刀身に食い止められ、瑠璃の腹に傷を作ることは叶わなかった。
彼女は目を丸くしていた。瑠璃の動体視力に驚いているようだ。
「そんな最小限の動きで、ガードしたの……?」
「ええ。それより……退いて、もらえませんか?」
瑠璃は柄と鞘に添えた手を、ぐっと前に押し出した。だが、彼女も同じように体重をかけて寄りかかってくるから、突き放すことはできない。
「やだよ。もっとお姉さんの実力見たいもん」
目の前で繰り広げられる立ち回りをただ見つめていたが、ようやく九兵衛は我に返り、声を張り上げた。
「止まれ宮本!!」
彼女は唇を尖らせた。仕方なさげに、心底残念そうに、腕から力を抜く。
あーあ、と大きなため息をつく彼女が背中を向けた。だが、瑠璃は警戒を解かず、じっと居合いの体勢で静止する。
しかし、少女はもう斬りかかってこなかった。九兵衛に、突然人に斬りかかるとは思えないほど人懐こい笑顔を向けている。
「残りの1人って私でいいんじゃない? 結構強いのよ、若も知ってるでしょ??」
彼女は九兵衛に「ね?」と言って微笑んだ。しかし、九兵衛は苦い顔をする。
しかし……と呟く九兵衛に対し、彼女はまたも唇を尖らせる。そした、半ば強制的に、彼女は皿を取った。
「この私、宮本沙弥で決定! それでOK!! お姉さん、また後でね」
そう言うと、彼女はどこかへ走り去ってしまう。それを呼び止める九兵衛や四天王の声も聞かずに、姿を消した。
突然現れ、突然消える。まるで嵐のような少女だ。
瑠璃は肩をすくめ、短く息をついた。首をぐるりと回しながら、仲間の元へ歩いていく。
まるで、何事もなかったかのように平然と。表情を一切変えることなく、瑠璃は仲間たちの前に立った。
「お騒がせしました」
ただ一言言って、瑠璃は深く頭を下げた。すると、その頭上から、土方は呼びかけた。
「今度は本気でやれよ。あのガキに一泡吹かせてやれ」
顔を上げ、土方を見る。彼はいたずら好きな子どものように笑っていた。
宮本沙弥という彼女に、瑠璃が相手になったことを後悔させてやれと言いたいのだ。
意を汲み取り、瑠璃はこくりと頷いた。