銀魂 長編
□第六話
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勝負のことは伝えず皿がほしいとだけ言ったのだが、女中は何も言わずに皿を貸してくれた。
これで、3人全員に皿が行き渡った。
しかし、また問題が発生した。貰った皿に醤油が付いているらしく、神楽はそれを使うのは嫌だというのである。
「んじゃ俺の皿使えよ。醤油皿は俺が使うから」
大人の対応で土方はその問題を乗り越えようとしたが、またしても神楽は「マヨネーズが付いてるから嫌アル」と言って拒んだ。
マヨネーズはもちろん付いていない。神楽は土方に嫌がらせをしたいのだろう。
神楽は土方が嫌いなのかは分からないが、なんとなくそうなのではないかと瑠璃は思った。
「私のお皿を神楽さんに渡して、そっちのお皿は私が……」
「いや、それならお前が俺の皿使えよ。汚れてるやつより綺麗なやつの方がいいだろ」
醤油が付いている皿を取ろうとして瑠璃が手を伸ばすと、土方は手を上に上げて遠ざけた。
代わりに瑠璃に土方の皿を渡そうとするが、瑠璃は手を握りしめて受け取りを拒否する。
「副長、受け取れません。あなたに、汚れたものは持たせたくないです」
「たかが醤油だろ。気にすんな、受け取れ」
それに気がつかない振りをして、土方は瑠璃の手に強引に皿を持たせた。
瑠璃は持っていた皿を神楽に渡そうとするが、神楽はそれを受け取らなかった。
「瑠璃に気を遣わせたら銀ちゃんに怒られるかもしれないアル。受け取れないアル」
「おい、お前いい加減にしろ。こんなことに時間使ってらんねぇよ」
「あ、私あの皿がいいアル」
そう言って指差した先には、とても大きく綺麗な皿があった。瑠璃は言葉を失うが、土方の反応は速かった。
「ほんといい加減にしろよてめーは!だいたい、あんなでけぇ皿しょってどうやって戦うんだよ!!」
瑠璃も同意の意を込めてコクコク頷いた。
同じく柳生側の女性も戸惑ったようだ。笑いながら、優しく神楽を諭した。この皿はどこかの星のとんでもなく高いものだから、と丁寧な理由をつけて説明する。
しかし、神楽は子ども。一度これがいいと思えばすぐには意見を変えられないようだ。
「副長……どうしましょう」
「……ちっ、これだからガキは…」
そう言った土方の目は、遠くで上がる煙を捉えた。つられてそちらを見た瑠璃も、開戦の証であるそれに気がついた。
「神楽さん、とりあえずこれを、……あれ?」
先ほどまで手に持っていた2つの皿ーーー瑠璃と土方の皿が、瑠璃の手から消えていた。
足元を探してみる。屈んだその時、神楽が布を結んでいることに気がついた。
回り込んで確認すると、神楽の胸に2つ皿があった。
「しょうがないアル。マヨ皿で我慢するネ。瑠璃の好意もありがたく受け取っとくアル」
「そこにあったんですね。どうぞ」
「ちょっと待てぇぇぇ! 俺と瑠璃の皿は!? つーかお前も『どうぞ』はおかしいだろ!!」
瑠璃はすみませんと一言謝るが、神楽を責めはしない。どうしましょう、と言って土方を見つめている。
困ってんのは俺もだよ。そう思うが、土方は声にしなかった。黙って額に手を当て、考えている。
しかし、そんな時間を長く取らせないとばかりに大男が何処からともなく現れた。
神楽の背後を取るように現れたためか、神楽は気がついていない。
1番早く気づいたのは、土方だった。
「チャイナ、後ろ気を付けろ!!」