銀魂 長編

□第六話
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既に木刀を構えていた彼ーーー西野掴に殴り飛ばされるが、神楽は体を捻って皿を守った。


しかし、飛ばされた先にはまた人がいた。北大路斎に突き上げられるように刀で殴られる。


「ぐっ……!」


神楽は宙に投げ出され、歯を食い縛った。痛みに耐える短い声を聞いた瑠璃は目を細めた。


助けようと刀に手をかけて、皿のことを思い出す。


自分はまだ、皿をつけていない。これでは勝負に参加したとみなされない。


歯がゆい気持ちを抱えたまま、神楽を見上げた。


南戸粋が屋根の上から表れる。彼は、神楽を仕留めようと木刀を構えていた。


「神楽さん! 上!!」


間に合わない、と思っていても駆け出した。しかし、それが駄目だったようだ。


視界の端に映る茶色い影が、瑠璃に強い衝撃を与えた。脇腹に鈍い痛みが走る。


「っう"……!」


宙を舞った後、体は砂利に叩きつけられた。脇腹を押さえながら、立ち上がろうと片手を着く。腹に感じる熱と痛み、ジンジン痺れるような感触は、木刀で殴られた証だった。


「っは……! ぁ、うっ……い、ったい……」


立っていた位置に目を向けると、西野が木刀を持った手を軽く回していた。殴ったのは彼で間違いないらしい。


「貴様の皿はどこだ。寄越せ、割ってやろう」


彼は丸太のように太い腕を差し出した。しかし持っていないものは渡せないので、瑠璃は首を横に振った。


西野は片眉を吊り上げた。そして、ふっと笑う。真っ直ぐ瑠璃に歩みより、剣道着の襟を掴んだ。


吊り下げられた瑠璃は、彼の腕を解こうとする。彼の左腕に、両手の爪を立てた。だが、彼は物ともしない。


「ん? 皿が見当たらんな……どこに隠した」


皿を探すため、彼は右手で瑠璃に触れようとした。


その時、彼と瑠璃の前を何かが駆けた。ドッ、と西野の腕が震え、襟を掴む手が離れた。


「っきゃ……!」


どんっ、と地面に尻餅をつく。瑠璃は腰の辺りを擦りながら、西野を見上げる。


「え、副長っ……?」


呟くと同時に、西野が苦痛によって声を上げる。土方による打撃を受け、彼の巨体は屋敷の方へと吹き飛ばれた。


瑠璃の隣に、木刀を肩に担ぐ土方が立っていた。ただ、不思議なことに土方の体にはあの大きな皿が結びつけられている。


土方は瑠璃を見下ろした。ぽかんとした様子で見上げる瑠璃に、そっと手を差し出す。


「大丈夫か?」


瑠璃は頷き、おずおずとその手を取った。ゆっくりと、強い力で土方はその手を引く。


「あ、あのっ……ありがとう、ございます……」


「気にすんな。1歩遅かったしな……腹は大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。少し、痛いですけど……」


少し緩んだ衿を正しながら、瑠璃は答えた。実際、痛みはもうほとんど消えている。


さっきまでは息をするだけで苦しかったが、今は少しも気にならない。息は平常にできるし、腹に感じていた熱も引いている。


「瑠璃、どうしたアルか!?」


「てめぇがリンチされてる時、こいつもそこのでけぇのに殴られたんでぃ。ま、油断したこいつが悪ぃな」


いつの間にか沖田も合流していたようだ。瑠璃は彼が言った"油断"という言葉が心に刺さり、肩を落とした。


「不甲斐ない……」


「そう気を落とすな。まだ始まったばっかりだ、これから気を付ければいい」


土方は懐を探り、1枚の皿を取り出した。短く細い、何かの染みがついているそれを瑠璃に渡す。


「結局 醤油皿になって悪いな。とりあえず、早く着けろ」


「いえ、副長が使ってください。それでは、動きづらいでしょう?」


「いいんだよ、俺はこれで。これくらいのハンデがあった方がいい勝負になる」


少し迷ったあと、瑠璃は土方から皿を受け取った。体にそれを押し当て、布で固定する。


瑠璃が選んだ場所は体の中心、名称でいうと鳩尾だ。他に着ける場所が思い付かなかったことと、腕を前に出すだけで防御できることが関係している。


「よし、これで全員の準備が整ったな。気ぃ引き締めて行くぞ」


「はい、副長」


いよいよ本格的に勝負が動く。緊張で高鳴る胸元を押さえ、瑠璃はぎゅっと木刀を握りしめた。


その時、ふと思い出した。沖田と共に行動していたはずの銀時の姿が見えない。
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