銀魂 長編
□第八話
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しばらく走った、息が切れ始めた頃に2人は足を止める。しばらくして、新八が追い付いた。しかし、土方の姿が見えない。
「志村さん、副長は?」
息を切らしている新八は、膝に手をつきながら息を整えた。そして、少し落ち着くと、ぜぇぜぇ言いながら答えた。
「土方さんは、僕を逃がしてくれて……! 早く行けって……なるべく、遠くまで走れって!」
それを聞き、沙弥は目を見張った。
「まさか、若と戦うつもり? あの人のことは知らないけど、若の方はかなり速いし強いのよ??」
沙弥の問いかけには、土方の強さを知っている新八も返事を返すことができなかった。
新八はどちらの強さも知っているので、答えられないのは当然だ。
土方には勝ってほしい、しかし、九兵衛は強い。あの小柄な体のどこに隠しているのか分からないほど力が強いし、動きも素早い。
対して土方は、北大路との戦いで負傷した上に大きな皿を抱えるというハンデがある。これが大きく影響するのは目に見えている。
「……やっぱり、助けに」
「だめです」
強く言い切ったのは瑠璃だった。彼女は沙弥が袖口に挟んでいた髪止めをもらいながら、新八に向き直った。
長い前髪をかき分け、大部分を左に寄せたあと、ぱちん、という音を響かせる。
この時、新八は初めて瑠璃の顔を見た気がした。
「眼帯の彼は、知りませんが……副長は強い。すごく、強いです。だから、心配するのは失礼です」
彼女は凛とした顔立ちで、新八のことを真っ直ぐに見ている。挨拶をしたときの面影は感じられなかった。
さすが真選組というべきか、その堂々した振る舞いには美しさすら感じる。
「副長が、私に命じたのは……あなたを逃がすこと。あなたを、護ること。あなたは、お姉様を救いたい。救いたいなら、戦いを終わらせるべきです」
瑠璃は決意を固めたように足を進めた。元来た道は戻らず、前へと。
2人はそれに従い、後についた。少し歩いたあと、瑠璃は呟くように言った。
「私が、あなたを護ります。……だから、副長のこと、信じてください」
新八は、凛としたその後ろ姿を見つめた。彼女と土方の関係はよく知らないが、彼女が土方を大層信頼していることはよく分かる。
普段から側で働き、土方のことを見ている。彼の強さをよく知っている彼女が信じろと言うなら、新八がするべきことはただひとつだ。
新八は頷き、威勢よく「はい」と返事を返した。
その返事に瑠璃が反応を返すことはなかった。少なくとも、新八にはそう見えた。
だが、隣を歩く沙弥は違った。沙弥には、瑠璃が少し穏やかな顔をしているように見えた。
「少し走りましょう。相手の大将も、まだ見つかっていないようですし」
「大将ねえ……たぶん、敏木斎様じゃないかと思いますよ? ちっちゃいおじいちゃんです」
3人は駆け出した。どこという明確な目的はないが、それでも走った。
地面いっぱいに広がる紅葉の葉を踏み鳴らし、戦いを終わらせるために、ただ前へ進んだ。