銀魂 長編
□第十八話
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屯所にいればどこにいても視線を感じる。嫌気が差し、瑠璃は外に飛び出した。
何の目的もないただの外出だ。だが、歩くだけというのも暇なので、瑠璃はなんとなく公園に向かった。
公園は待ち合わせをしているらしい人や追いかけっこをする小さな子どもが多く、なかなか賑やかだ。
楽しそうな人々に囲まれれば少しはこの憂鬱な心がマシになるのではないかと考え、瑠璃は空いているベンチに腰かけた。
何をするわけでもなく、ただぼんやりと空を見つめる。しばらくそうしていたら、誰かが隣に腰かけた。
「よっ。……おーい、聞こえてるかー? 」
隣に座った誰かが、瑠璃の顔の前で手を振った。手の主を見ると、見覚えのあるふさふさした銀髪が風に揺れていた。
「坂田さん」
「ああ。元気か?」
瑠璃は適当に会釈して、再び目を逸らした。
今は、人と接することがいつも以上に苦手だ。本音を言うと、銀時とも話したくはない。
しかし、何も知らない銀時は何か冗談を言っていた。だがそれも、瑠璃が反応を示さないでいればやがて口を閉じた。
少しだけ沈黙が続く。口火を切ったのは銀時の方だ。
「この前、宮本がうちに来たぜ。お前ら喧嘩したらしいな」
瑠璃が僅かに反応を示すと、銀時は横目でそれを確認した。そして、その日の事を少しだけ教えてくれた。
沙弥はひどく落ち込んでいて、ずっと神楽に愚痴を溢していたらしい。その内容は全て、沙弥自身を責める言葉だったという。
「詳しくは知らねぇけど、怒ってるんならそろそろ許してやれば?」
「あの人は、悪くありません。私も、怒ってなんか……」
「じゃあそう言ってやれよ。仲直りしてこい、な?」
「……仲直りは、しません」
「……なんで? あいつのこと嫌いなのか」
「違います」
銀時は目を細め、首を傾げた。一問一答な瑠璃の返事は、より疑問を深めていくだけだった。
ふう……と銀時は溜め息をついた。このままでは何も進展しなさそうな2人に、何かしてやれないかと考える。
「まあ……、外野が口出すようなことじゃねぇと思うけどな、とりあえず」
「用事がありました。失礼します」
「嘘つけぇ! さっきからずっとここでぼーっと空見てたじゃねぇか、暇なの分かってんだぞ!?」
去ろうとした瑠璃の手を掴み、銀時は前に回り込んだ。どうにか沙弥と仲直りするように説得しようと試みる。
その時、銀時は気づいた。瑠璃の顔色は悪く、前髪の隙間から見える目が虚ろであることに。
精神的に参っているような印象を感じ取った銀時は、目を見張ったまま、瑠璃をじっと見つめていた。
「坂田さん?」
「……お前なんかあった?」
「……何も」
表情が硬く、不自然だった。感情の動きが感じられず、まるで操り人形を見ているかのように錯覚してしまう。
間違いない、と銀時は思った。
彼女は今、何かに精神的な苦痛を与えられて疲れきっている。沙弥とトラブルになった理由もそこにあるのではないかと考えた。
「嘘つけ。……元気ねぇし、話すとき表情一切変わらねぇし、見てりゃ分かる。お前、今苦しんでるだろ」
銀時の言葉に、瑠璃はポカンと微かに口を開いた。彼女にとって予想外のことを言われたのだと、その口が示している。
「──なんで」
誰かに助けてほしいという気持ちが積もりに積もり、もう限界だという時に差し伸べられた救いの手。
誰かに助けてほしいと願いながら、今までに差し伸べられた手は全て叩いてきた。それなのに、その手にはすがり付きたいと思う自分がいた。
それは何故か? 答えは簡単だ。
『お前、この村の奴らにひでぇことされてるんだろ? 最初の怯えかたといい、さっきの話といい、聞いてりゃ分かるんだよ』
先程の銀時の言葉が、昔もらった言葉に似ていたからだ。
銀時は瑠璃がこの世で一番頼りにしている男に似ていた。だから瑠璃は伸ばされた手を凝視した。
この人なら救ってくれる。勝手に期待して、考えるより先に口が動いた。
「なんで……分かって、しまうんですか……」
瑠璃は右手を掴んだままの銀時の手に、自分の左手を重ねた。弱い力で包み、俯きながら瑠璃は言った。
「……少し、お時間もらいます」
その声はか細く、今にも消えてしまいそうな響きを持っていた。