2次創作
□冬の間に
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いつも通りの朝。いつも通りの仕事。私は毎日炊事や洗濯をこなしていた。
大変で、いっぱい叱られたりするけど、私にも楽しみなことがあった。
日が沈み始め、宵闇が迫る頃。私はあの人に会いに行く。ああ、今日はどんな物語を聞けるのかな。 歩いているうちに草原が広がる場所へ辿り着いた。
あの人は今日も同じ場所で待ってるのかな。胸にこみ上げる気持ちを抑えながら、私はいつもの場所へ向かった。
そのうち、一人の影が見えてくる。ああ、やっぱりあの人だわ!
足音が聞こえたのか、あの人は私の方へ振り向いた。そして私を見つけると、花が一輪咲いたかのようにこちらに笑いかけた。
「こんにちは、mademoiselle。今日も会えて嬉しいよ。」
「私も会えて嬉しい!こんにちは!」
彼の名はイヴェール。生まれてくる前に死んでしまう人。長い雪のような銀色の髪を結いでいて、頬には印象的な模様がついていた。
「今日はどんな物語を唄おうかな。井戸子ちゃんはどんな物語が聴きたい?」
「ふふっ何でもいいわ。どんな物語でも、聴いていてとても心が暖まるもの。」
彼は困ったなあ、と苦笑いしながら答えた。私は彼から聴く物語が好きだったけど、それ以上に唄っている時の彼が大好きだった。
今日は唄わないかわりに一緒にお茶はいかが、と誘われた。唄を聴けないのは少し残念だけど、いつもとは違ったことをするのもいいかもしれない。
喜んで、と笑うと彼も良かったと同じように笑った。
彼の笑顔は雪のようにすぐに溶けてしまいそうな、でも降り積もれば忘れられない、そんな笑顔だった。純粋に綺麗だなと思う。笑顔も、瞳も。
彼はティーカップとマカロンを用意してきた。お揃いの白に黒の薔薇の印が入ったカップ。そこに均等に紅茶を注いでいく。
これがマカロンなの?と尋ねると彼は驚いたようにこちらを見た。
「マカロン…食べたことないの?」
「うん…本で見たことはあったけど、食べたことは無かったわ。」
「じゃあ、気に入ってもらわないとね」
そう言うと彼は数種類あるマカロンから二つを選んでくれた。