みづのながれ/天上の焔

□冷たい頬
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第1話

冷たい頬

中庭に立つ松明が明々と燃え、背の低い植木の影をさも得体のしれぬ夜の魔物のようにカタチを変えて壁に映し出していた。影を焼くことはできない。この深い闇夜を恐れて、人は火をともすだけなのだ。

開け放した部屋からじっと炎の燃える様を見ながら、孔明は自分の頭の重さにこらえきれず、静かに身体を横たえると冷たい床に頬を落とした。傍の机案に広げたままの手紙はかつて臥龍の丘で共に暮らした弟から来たもので、兄が家を出てからの日々の物事、兄妻子の様子、兄が毎日世話をしていた畑の様子などを知らせていた。なかでも「季節は移ろうけれども、丘から見ていた美しい月は一層大きく輝くようだ」、という一文がますます家を懐かしく思わせた。

手紙を読み終えた孔明は、外へ出て月を眺めてみようかと思ってやめた。酒がまわって体は水で膨れたように重く、それに一度横たわってしまってはまた起こすのも容易ではない。触れ合った熱い頬と冷えた床とがどうにも心地よく、離しがたい。いけないとは思いつつ、誰も見てなどいないから、と孔明は目を閉じた。


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