みづのながれ/天上の焔

□紅蓮の炎
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第3話 紅蓮の炎


風がいい具合に吹いている。炎をあおり、敵を追い詰めるのに丁度いい。ここはまだ静かだが、その焦げ臭いにおいや熱を鼻腔が敏感に拾っている。

こんな草原の真ん中で、ぼけっと突っ立っているわけにはいかない。すぐに火が広がって、敵どころか自分さえ焼いてしまう。自分の計略で命を落とすとは、後世にのこる笑い話だ。

「・・・わたしの命が欲しいか。」

孔明は乾いたくちびるで問いかけた。この距離では剣槍は届かない。出陣の際、劉備から渡された一振りは直接戦わないのだからただのお飾りだと思っていた。それも間違いではなかった。震え、汗で湿りを帯びた右手の中でただただ鉛のように重く感じた。だが、弓はどうか。こうしている間にも矢をいかけて弓を引くのもあっというま。この沈黙を破るには一番楽だろう。そしてそれをするのは自分ではない、正面に対峙した、甲冑の男。



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