みづのながれ/天上の焔

□鬼に口寄せ魂を振る
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第4話 鬼に口寄せ魂を振る

あれから夜を越し、孔明は次の昼が来ても一向に目を覚まさぬので、劉備はいよいよ心配になってきた。ただの煙の吸いすぎで一晩横に寝かせておけば目覚めるだろうと思っていたが、顔を見に来てみれば、青ざめ呼吸も聞こえるかどうか、とても静かだ。険しい顔で医者を呼ばせ、診察させるが原因は解らぬまま、滋養の薬を置いて帰るが、本人が目覚めぬので飲ませることもできない。孔明の瞼は重く閉じられたまま、どんどん衰弱していくように見えた。

孔明の横たわる寝台の傍に立って、劉備は険しい表情で弟たちと相談していた。

「見ろ。このままでは孔明が死んでしまいそうではないか。事は急を要する。」

兄の深刻そうな物言いに、弟たちもうなずいた。先の戦闘で孔明の軍師たる手腕を目の当たりにし、いずれ大義を成し国を打ち立てるための強力な助けとなるだろうと確信していた。

「うーむ、孔明に死なれては困る。しかし医者に治せないなら、残念だがお手上げだ。看病を続けるしかあるまい。」

「なんとかならねぇかなぁ、別の医者に見せてみようか。」

うなるばかりで妙案は浮かばない。

「儂が孔明を煙の中で見つけたとき、孔明は煙に巻かれていたのではない、渦巻く煙の中心に立っていたのだ。そして儂が与えたこの剣で、炎を巻き上げ、敵を倒したのだ。」

劉備は携えていた剣を抜き、ふたりに見せた。あのとき燃えていた剣も今は冷たく、鈍く光るだけだった。

「これは妖剣などではない。何の変哲もない、ただの剣だ。孔明はただの人に非ず、もしや不可解なる力を得ているのかもしれぬ。」

「なんと、孔明は徳の高い道士であったか。いや、それはもう仙人じゃねぇか。」

「わからぬぞ翼徳。もしや妖しい憑き物がついておるのかもしれぬ。」

関羽は長い髭を撫でながら、うーんとうなり、言った。

「すると、人知を超えた者に医術が通らぬのは当然だろう。ここは道士かそれに精通する呪い師を探すのがよい、ということか。そうだな、兄者。」

劉備はうんと深くうなずき、話しはまとまった。


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