みづのながれ/天上の焔

□水魚の交わり/桃
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第5話 水魚の交わり/桃

次の昼頃、孔明は目を覚ました。今はいつで、あれから自陣はどうなって、一通り寝番の兵に聞き終えると、衣を着替え、とりあえず外へでた。ずっと横になっていたせいか、体がだるい。けれど、今孔明にはすぐに会いたい人物がいた。

日の光がまぶしく感じられた。その下で兵士たちが声をあげて槍の訓練をしている。槍同士がぶつかり合う音を聞いても、まだ頭ははっきりしない。ぼんやりその光景を遠巻きに眺めていると「孔明!」と、声がした。振り返ると、同じように槍を持った関羽だった。「もう平気なのか。」その顔には笑顔があった。

「おかげさまで。ついさっき目覚めました。聞けば丸2日も寝ていたというので自分でも驚きました。雲長殿にもご迷惑をおかしました。」

「なに、今おぬしが生きておればそれが一番なのだ。この前の戦の件、感謝いたす。あれはまさに孔明のお手柄だった。」

「うまくいって何よりです。自信はありました。もちろんそれは殿方の力あってこそです。敵を蹴散らす殿たちのはたらきは、それは勇猛であったと聞きました。」

関羽に認められ、孔明は心のなかでほっと息をついた。例の戦の前に孔明に指揮をとらせるようけしかけたのはほかならぬ関羽と張飛であった。ふたりは常々なんの手柄も経験もない孔明が劉備に大切にされているのをおもしろく思っていなかったので、その実力を見せよ、と迫ったのだ。戦まで時間もなく、もちろん二人には孔明を少し困らせてやろうという意図も少なからずあったのだが、孔明は正面から堂々とそれを受けた。勿論孔明には戦に勝つ自信があった。自分もいつまでもあなどられたままでいるのは癪で、それでプライドに火がついた。そして劉備の心配をよそに、孔明は劉備に剣一振りを与えるよう自ら頼み、自ら戦の場に立ったのだった。

「兄者に早く会いに行ってやれ。一番お前を心配していたのだ。」

「ええ、そのつもりです。殿自ら、私を助けるため、医者を連れてきてくださったと聞きました。ぜひそのお礼を申したいのです。」

人から聞いた劉備の厚意にかかった自分を少し誇らしく思った孔明の言葉だったが、関羽は何かはっとしたようにして、「医者?・・・ああ。」と言いよどんだ。


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